育鵬社横浜藤沢での不採択

2020-09-19

以下「自由法曹団通信」に掲載される予定の私の原稿です(小池)。

育鵬社歴史・公民教科書,神奈川県横浜市・藤沢市で不採択

1 神奈川での不採択の意義

2011年,神奈川県横浜市と藤沢市は,いわゆる「つくる会」(歴史修正主義,反日本国憲法)系の育鵬社歴史・公民教科書を採択したが,9年を経た本年,両市は歴史・公民とも育鵬社を不採択とした。全国最大の採択地区横浜市約25500冊,藤沢市約3500冊。これら2市の合計約29000冊が全国に占める割合は約2.7%。育鵬社の全国採択数に占める割合も前々回2011年は優に過半数,大阪市などの採択があった前回2015年も半数に迫る。育鵬社採択問題の半分は神奈川だった,といわざるを得ない。

神奈川での不採択は育鵬社の全国的退潮を決定づけ,育鵬社のシェアは2015年歴史6.5%,公民5.8%から歴史は1%程度へ。公民は1%を大きく割り込んだ。

2 2015年の採択継続

 私は実は,前回2015年には不採択にできると思っていた。「つくる会」を推進した中田宏横浜市長は2009年,海老根靖典藤沢市長は2012年に去り彼らの任命した教育委員は一部のみ。団は高校入試問題分析を含む包括的な意見書やリーフを作成配付し,市民運動も進んでいた。

 ところが,採択を決する藤沢市教育委員会では,青年会議所出身の教育委員長(海老根市長任命)を中心としたシナリオ的議論で育鵬社採択。横浜市教育委員会では傍聴人数二四名でその余は遠隔会場での音声中継の中,社名を伏せての不思議な議論がなされ,今田忠彦委員(中田市長任命)以外育鵬社支持とわかる意見はなかったにも拘わらず,無記名投票では歴史公民とも3対3。岡田優子教育長のもう1票で育鵬社採択。

3 2020年の不採択に向けて

 団神奈川支部は道徳の教科化を含め,学習会開催や市民団体での講演等にも取り組んだ。

 2020年に入ると,コロナで街頭活動や集会の制約される中,前回に引き続き,団本部作成の意見書とは別に,社文,労弁,青法協,団の各神奈川県内組織連名の意見書を作成送付した。やはり「県内」「市民」の重みはあると思う。横浜藤沢両市教育委員会への申し入れ,教科書展示会への参加呼びかけや参考資料作成も行った。

 私個人としては,事務所ブログに関係記事を書くと共に,ツイッターに投稿した。コロナで自宅にいる際には全国高校入試問題を5年分検討し,団意見書を改訂した。2015年に何故か産経新聞が報じてくれたことも相まって,育鵬社では入試で不利なことはある程度周知されたと思う(無論,中学教育は入試のためにあるわけではないが)。

 市民の力で,採択手続の透明化は進んだ。藤沢市では採択前段階で既に市立中学校の意見=育鵬社の低評価が公表されていた。横浜市は傍聴人数の制約は相変わらずだが,ネット上への動画配信がなされ,議論で社名は明らかにされるようになった。

 こうして,横浜市,藤沢市とも育鵬社は不採択となった。

4 成果と課題

育鵬社不採択は本年のみの取り組みでなしえたものではなく,2015年以前からの積み重ねの結果だと思う。

2011年には,育鵬社のシェアは歴史3.7%,公民4.0%と公民の方が大きかったのが,団意見書(主として公民教科書を対象)が発表された2015年以降は,冒頭述べたとおり公民の方が小さくなっており,団意見書の成果かもしれない。

 ただ,実際上は,育鵬社採択を推し進めてきた横浜市の今田忠彦委員,藤沢市教育委員長の退任が大きかったことは否めない。

 今後は「つくる会」系教科書の採択自体を防ぐことだけでなく,教育委員の任命等,育鵬社のシェア拡大に寄与してきたものにも取り組む必要があろう。  

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