横浜地裁のことまたは「深く目覚めよ」(岡松和夫)
2016-03-14
雨の日横浜地裁に行き、事件が終わったのでひとやすみしようと外にでた。何気なく立派な建物が建ち並ぶ日本大通りを美しいと思った。そして、40年くらい前、読んだ岡松和夫の「深く目覚めよ」を思い出した。横浜で高校教師をしている主人公が裁判傍聴を趣味としていたところ、偶然知り合いの女性の弟が被告席にたたされていることを目撃したことから始まる物語である。もう結末は忘れてしまったが、横浜地裁の建物の美しさを讃えていたことは覚えている。後年、よもやその横浜地裁によく通う羽目になるとは全く想像できなかった。横浜地裁は美しいという文章はなぜか頭に残った。建物は新庁舎になったが、昔の面影は残されている。折に触れて美しいかと考えてみたが、別に美しいとは思わなかった。しかし、今日は美しいと思う。なぜか、多分、通常は、懸案を抱えて裁判所に来るので、事件処理のことで頭がいっぱいになり、他のことを感じる余裕がない。ところが、今回は、とりあえず事件は終わり、当面の懸案はなくなりほっとしているところである。そのような状態で見た風景なので、素直に外界をみることができたためなのか。岡松和夫のことを少し調べてみると、やはり横浜で教員をしていた(のちに関東学園短期大学教授)。小説の主人公はなにほどか岡松自身のことが反映されているだろう。簡素で淡々としていて胸に染み入る文章であったように思う。教え子が心のこもった追悼文を書いていた。岡松の人柄が偲ばれる。