生き延びた者の辛さ、または、ETV特集「名前を失くした父 人間爆弾桜花発案者の素顔」

2016-03-20

 戦中特攻兵器桜花を発案した海軍少尉大田正一の戦後の物語である。戦後自殺したとされていたが、生き延びていて名前を変えて生きていた。息子(私とあまり変わらない年齢である)が面倒見のよかった父の足跡を辿り搭乗者に当時の事情を聞きに行く。大田は戸籍がなく、まともな仕事につけず20数回職を変えた。息子はそのような父の苦労を知っているので、元搭乗員に名乗り出ることはできなかったのかと問う。すると元搭乗員は、生き延びた者の辛さを口にした。
 確かに、特攻兵器を発案して、多数の搭乗員を死に至らしめ、他方、自ら志願すると公言しておきながら結果として生き延びた大田が生き延びたことに辛さを感じていたことは了解する。一海軍少尉がどれほど海軍の兵器製造に寄与したのか議論があるところであるが、少なくとも特攻攻撃を含めあらゆる手段を使って勝ちたいと考えていた軍首脳の意向に合致していたことは間違いないだろう。
 しかし、死ぬことを運命づけられていたところ、九死に一生をえた90歳の元搭乗員が、生き延びたことについて辛さを口にしていることに衝撃を受けた。元搭乗員は戦友4人のうち3人を失くしていて自分は足を怪我して生き延びた人であったと思う。彼は70年前、死んでいった戦友のことが忘れられないのだろう。どんな思いをして戦後をおくってきたのか。見えなかった歴史の重みを感じた(山森)。

以下番組の紹介である。
戦争中、海軍が開発を進めた特攻兵器“桜花”。人間が操縦しロケットを噴射、敵艦に体当たりする「人間爆弾」だ。これを発案した大田正一は、終戦直後零戦で海に飛び込み自殺したと思われていた。しかし大田は名前を変えて生き延び、新しい家庭を築いていた。息子の大屋隆司さん(63)は中学生の時、父の本名が大田正一だと明かされた。しかしそれ以上何も聞けず時が過ぎた。父の過去と向き合うことで浮かびあがる戦争の傷跡。
出演者ほか
【語り】三浦貴大,【朗読】園部啓一,【声】佐々木啓夫,樫井笙人,土田大
初回放送:2016年3月19日(土)午後11時00分
再放送:2016年3月26日(土)午前0時00分

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