第2 調査の前段階 1調査のための組織 2文書の保管について
「いじめ重大事態調査委員(いわゆる第三者委員)となる方のために」連載記事の続きです
目次も併せてご参照ください。(小池)
第2 調査の前段階
1 調査のための組織
(1)自治体の規模による差異
大規模な自治体では,教育委員会の下に調査委員会が常設されていて,調査の諮問前に既に会合などもたれているのではないでしょうか。
これに対して,小規模な自治体では,予算上,人材確保上の問題からか,調査委員会は常設されていないと思われます。おそらく法第28条第1項の調査は余程のことがなければ学校の下に設けられる組織で行うのではないでしょうか。
(2)組織が教育委員会と学校のいずれの下に設置されるか
この点については,国の基本指針(33頁。県も同様の記述)は次のとおりです。
・ 学校主体の調査では,重大事態への対処等に必ずしも十分な結果を得られないと学校の設置者が判断する場合
・ 学校の教育活動に支障が生じるおそれがあるような場合
には,学校の設置者において調査を実施する。
なお,国の「不登校重大事態に関する調査の指針」4頁では,この前者について,
具体的には,例えば,学校と関係する児童生徒の保護者間のトラブルが非常に深刻化しておりもはや関係修復が難しい場合や,大きく報道されているなど,学校の負担が過大で調査を実施することにより学校の教育活動に支障が生じるおそれがあるような場合を指す。
と説明しています。
神奈川県教育委員会では,保護者の学校に対する不信感が強く調査委員会での調査を希望した案件については,調査委員会での調査を決定しています。
しかしながら,「疑い」があれば法は重大事態調査を開始するとしている以上,これに忠実に運用すれば,小中学校の場合膨大な件数となるものと思われ,学校に設けられる組織での調査を実施する必要性が大きくなると思われます。
2 文書の保管について
諸々の調査事案において,文書が破棄されているということがままあります。
生徒に対するアンケート調査や個々の教員の手控え(教務手帳)など,極めて重要な資料であるにも関わらず,「年度が替わったので破棄した」みたいな話があったりします。
平時から設置されている調査委員会であれば,初回の顔合わせのときに釘を刺し,可能なら次のような文章を事務局に示して,文書の保管を求めるのはいかがでしょうか。
生徒のアンケート,教務手帳等文書の保存について(案)
令和●年●月●日
●市いじめ問題調査委員会
先生方が日頃より児童生徒の人権を擁護し充実した教育活動を実践されていることに敬意を表します。
さて,いじめ事案の調査に際して,学校における重要な文書,特に生徒のアンケートや教務手帳等日常的生徒指導の記録が既に破棄されているケースがままあります。
こうした事態は,いじめ事案の実態解明,保護者・市民の信頼確保のみならず,学校における継続的生徒指導の観点からも,問題があります。
生徒の肉声であるアンケートの重要性はいうまでもありませんが,教務手帳等は先生方が日頃いじめ問題をはじめ様々な課題に御尽力いただいている記録そのものであり,教務手帳等がない場合,たとえば「多数の課題を抱えていた」といった認定が困難となる可能性があります。
いじめ事案に関連する重要な文書,特に生徒のアンケートや教務手帳等日常的生徒指導の記録については,少なくとも当該生徒の在籍中は,適切に保存してくださいますようお願いいたします。
なお,付言しますと,●市の公文書管理条例上も,生徒のアンケートはいじめ防止対策推進等のために学校が「組織的に用いる文書」であることは明白ですし,また,教員が個々に生徒指導上の記録をしている手帳であっても,他に日常的な生徒指導上の出来事を記録した文書がなく学校において生徒指導上の問題を協議するに際し不可欠な資料となる以上は,これもまた学校が「組織的に用いる文書」というべきであって,保存を要する文書というべきです。