天皇のあいさつまたは歴史修正主義に対する折り目正しいたたずまい
天皇の新年の挨拶が目を引いた。以下のとおりである。
「(前略)本年は終戦から七十年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています(後略)」。
昨年の朝日新聞バッシングなど歴史修正主義の跳梁に対する天皇の考えを述べたものと理解した。かなり政治的含意のあるコメントであるが、昭和史を生きてきた者にとって常識というものであろう。思えば、現在の天皇は、先の昭和天皇を目の当たりにして育った。平和についての思いは、私個人などよりも遙かに強いだろう。押しつけがましいところがなく、順々に説いていく姿勢に感銘する。天皇の発意なのであろうが、政治的影響を勘案して、相当練った文章ではないだろうか 。
期せずして橋本龍太郎元首相の「元『慰安婦』の方々に対する内閣総理大臣の手紙」(通称「お詫びの手紙」)を思い出した。 内容は以下の通り。
「拝啓 このたび、政府と国民が協力して進めている「女性のためのアジア平和国民基金」を通じ、元従軍慰安婦の方々へのわが国の国民的な償いが行われるに際し、私の気持ちを表明させていただきます。いわゆる従軍慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題でございました。私は、日本国の内閣総理大臣として改めて、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを申し上げます。我々は、過去の重みからも未来への責任からも逃げるわけにはまいりません。わが国としては、道義的な責任を痛感しつつ、おわびと反省の気持ちを踏まえ、過去の歴史を直視し、正しくこれを後世に伝えるとともに、いわれなき暴力など女性の名誉と尊厳に関わる諸問題にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えております。
末筆ながら、皆様方のこれからの人生が安らかなものとなりますよう、心からお祈りしております」
内容については批判の余地もあるだろうが、これも折り目正しい文書である。相当練ったものであろう。内省的で、胸の深いところに届く。
天皇の言葉は、朝日新聞や東京新聞はこのことについて報道しているが、面白いことに読売新聞は(デジタル報道をみた限りであるが)内容についての報道はなかった(産経はよく探したら報道していた)。報道機関のスタンスを垣間見る思いがする(山森)。