反社会的人格障害は前頭葉の障害が原因か、しかし、なんか変だ

2012-12-23

テレビが好きですが、布団をかぶってまどろんでいるのも大好きです。たまたま、寝ぼけまなこでテレビ番組を聞いていましたところ、認知神経科学の話でした(放送大学「認知神経科学)。講演者(道又爾)は概ね以下の説明をしました。
 刑務所の受刑者の50%以上の人は反社会的人格障害が疑われる。反社会的人格障害とは、躊躇なく社会的ルールを破り他者に暴言を吐き、暴力をふるい、嘘をつき、衝動的な行動をするなどの症状を示すものをいう。ところで、医療で使うPET(陽電子放出断層撮影法)を用いて、反社会的人格障害者の前頭葉を調べた結果、眼窩前頭皮質におけるグルコース代謝が健常者よりも低下している可能性があることが発見された。反社会的人格障害は前頭葉の障害によって生じている可能性がある。
 「え!」と、思わず、眠気が醒めました。そんなことを言い出したら、犯罪者に対して責任を問う基礎がなくなってしまうではないか。責任能力なしです。怖ろしいことだ。同時に、最近の認知心理学の発展はすごいもんだと思いました。
 しかし、日頃、刑事事件の弁護人として被疑者被告人に接する機会のある立場からするとどうも違和感があります。最初から犯罪をするように運命づけられている人がどれほどいるのか。弁護人の立場から被疑者被告人に接してみると、生来的に犯罪をすることを運命づけられている人というのはほとんどいないのではないかというのが実感です。もとよりその人の人となり人格は重要です。しかし、それだけでなくその人を巡る生育環境、事件が発生したときの状況、時代背景等外的要素が多いように思います。無論、困った性格の人はいます。しかし、そういう人は往々にして不幸な幼少期を送ったといった事情があり、生来的犯罪人的性格といったひとはほとんどいないのではないかと思っています。
 前頭葉の障害が、即、反社会的人格となるのではなく、一定の因子として働くことは、もしかするとありうるかもしれません。しかし、仮にそうであるとしても、それは他の要素と相俟ってはじめて活性化するものだと思います。反社会人格障害前頭葉障害説は面白い考えですが、犯罪者とそうでない人の差はさほどないというのが私の率直な印象です。犯罪者の烙印を押された人も平穏な環境におかれていなかったならば、犯罪とは無縁の平穏に暮らすことができたのはないかと思います。他方、ごく普通の人も、それなりの環境におかれると犯罪を行うことがあっても、決しておかしくないと思います。ことほどさように人間は危うい存在であるとと思います。

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