育鵬社歴史教科書の問題点① 人物が多ければよいのか?
歴史学の見解はよく把握するところではありませんが,私にも把握できるところで,育鵬社歴史教科書の問題点を述べたいと思います。
宮城県教育委員会は,中学校社会科の歴史,公民教科書についてのみ,「補助資料」として,全社教科書の膨大な分析を行っています。
https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/798347.pdf
結論として宮城県教育委員会は,歴史について育鵬社を採択しており,作成の意図自体は賛成できるものではなさそうですが,中身自体は興味深いものがあります。
とりわけ,全社の歴史教科書に取り上げられている人物を一覧表に列挙した上で分析を加えている点は,大変な労作であり,興味深いものがあります。
このうち,各社の取り上げた人物についての集計(抄)は次のとおりです。
取り上げた人物数を合計すると,
東京書籍 325
教育出版 361
帝国書院 298
山川出版社 351
日本文教出版 271
育鵬社 410
学び舎 169
となるようです。
育鵬社が突出して多いことがわかります。
この点をとらえ,採択を決する教育委員会会議において,取り上げている人物が多いことを理由として,育鵬社を推す発言がなされることがあります。
しかし,取り上げている人物が多いことが,充実した教育に直結することはありません。
たしかに,ある人物について探求する=人物学習をすることで歴史学習を進めるという手法もあるでしょうが,その場合,対象となる人物はごく限られるはずで,数百人も取り上げる余地はないでしょう。
そもそも取り上げる人物が多いほどよいという考え方は,早い話が教科書はたくさんの事柄を盛り込んだ方がよいという考え方に等しいでしょう。
消化不良の原因となります。
真面目な生徒ほど,教科書に載っている人物を覚えようとして,そのうちにうんざりして,歴史嫌いになってしまうのではないかと思います。
なお,上記の宮城県教育委員会による集計・分析からは,
①育鵬社は取り上げた皇族の数が最多
→日本史における天皇の存在を強調している
②他社の中学教科書でこれまで扱われてはこなかったが,小説テレビその他一般教養で知られている人物が取り上げられる。特に戦後の文化人芸能人や科学者が目立つ。
→育鵬社を推す教育委員が「この人物も載っている」と強調しやすい
といった点が看取できると思われます。
充実した歴史教育のためというよりは,採択のための特徴づけというべきでしょう。(小池)