育鵬社公民教科書の問題点② 日本国憲法とは相容れない
一昨日もお知らせしたとおり,自由法曹団意見書「弁護士からみた 育鵬社の公民教科書の問題点2020 ~育鵬社の教科書もいいかな、と考えている方へ」が発表されました。是非ご覧くださいますよう,改めてお願いいたします。
https://www.jlaf.jp/04iken/2020/0617_585.html
私の方では,当ブログにて自由法曹団意見書の内容を少しずつ紹介していくと共に,あくまで私見に過ぎませんが,意見書に盛り込めなかったお話などもしていきたいと思います。本日は,育鵬社教科書が日本国憲法,さらにこれを承けた教育基本法や学習指導要領とは相容れないことについてお話ししてまいります。
教育基本法は1947年に制定され,2006年に全面改正されていますが,その際「我が党は、現行基本法の理念の骨格は堅持すべきだと主張しています。法案前文の『日本国憲法の精神にのっとり、』については、その精神の根幹は個人の尊厳の理念であると考えますが、いかがですか。」との公明党議員の質問に対し,安倍首相は「現行の教育基本法は、日本国憲法に定める理念を具体化するための規定を多く含むなど、日本国憲法と密接に関連している法律であり、このような理念の骨格は今回の改正によって変わるものではないことから、教育基本法案において引き続き『日本国憲法の精神にのっとり、』と規定しています。また、前文における『個人の尊厳を重んじ、』や、第二条第二号の『個人の価値を尊重して、』など、憲法の精神を具体化する規定を設けているところであります。」(第165回国会参議院本会議平成18年11月17日)と答弁しています。すなわち,現在の教育基本法も個人の尊厳を基調とする日本国憲法の理念を教育において実現するという骨格部分は全く変わりはありません。
当然ながら「平和で民主的な国家及び社会の形成者」としての国民の育成を教育の目的としていることも全く変わりはありません(教育基本法第1条)。
そして,日本の平和主義,民主主義の基盤は,①国民主権②平和主義③基本的人権の尊重を三原則とする日本国憲法にあることも改めて論ずるまでもないでしょう。
学習指導要領でも「我が国の政治が日本国憲法に基づいて行われていることの意義」や「日本国憲法の平和主義を基に,我が国の安全と防衛,国際貢献を含む国際社会における我が国の役割」は重視されています。また,内容の取扱い上の配慮事項として「核兵器などの脅威に触れ,戦争を防止し,世界平和を確立するための熱意と協力の態度を育成する」が挙げられています。この「熱意」という表現は,学習指導要領の中では他に例をみない,最上級といえるものです。
ところが,育鵬社公民教科書は,日本国憲法の基本的な原則よりも,その原則との関係が問題となってしまう,いわば「例外」的な内容を強調し,原則の取り扱いが不十分となっています。すなわち,
① 国民主権の原則において,「例外」的な天皇制が強調され,
② 平和主義の原則において,「例外」的な自衛隊,日米安保条約が強調され,
③基本的人権の尊重の章において,「例外」的な公共の福祉が強調されています。
これでは,生徒が日本国憲法の原則を学ぶ際に混乱をきたします。
また,「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ」るという中学校学習指導要領総則第1の2列挙の実現目標冒頭の文言とも相反します。
育鵬社教科書代表執筆者の伊藤隆氏は,歴史教育に求められるものは「イデオロギーにわざわいされない,ありのままの日本の姿を,国民に教育すること」とし,育鵬社教科書は「左翼ではない。やっぱり昔からの伝統をずうっと引き継いできた日本人,それを後に引き継いでいく日本人」をつくることを目指すとしています。日本国憲法の求める価値観は眼中になく,むしろ「イデオロギー」とか「左翼」として否定しているのではないでしょうか。こうした考え方で編集された公民教科書が,日本国憲法を的確にかつわかりやすく説明することはないでしょう。(小池)