教科書採択に関する他国友好都市からの要請は内政干渉か?
2020年8月15日付愛媛新聞報道によれば,「松山市立中学校で2021年度から使われる教科書の採択を前に,市民団体『平沢(ピョンテク)愛媛市民交流会』は14日,松山市の友好都市である韓国・平沢市の鄭長善市長と同市の市民団体,京畿道の被爆者団体から届いた歴史教科書に関する要請書3通を,松山市教育委員会に提出した。」とされています。
愛媛県松山市は,2015年の中学校教科書採択において,育鵬社の歴史教科書を採択していたことから,今回の要請となったものと思われます。
これに対して,ネット上では「内政干渉だ」との非難が複数なされています。
しかしながら,念のためいうと,強制的要素のない要請が,国家ではない自治体や民間団体によってなされても,国際法上違法な内政干渉とはなりません。
たとえば,
皆辺洸「国際連合と国内管轄事項の原則」・一橋大学研究年報「法学研究」10:1-85
https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/10095/1/HNhogaku0001000010.pdf
によれば,
「一般に干渉…とは,他国の自由の領域に立ち入り,自分の意思に従わせるため命令的.威圧的に行動することをいう。すなわち,干渉とは,命令的・威圧的介入…である。
一般国際法上,違法な行為として禁じられるのは,そういうものとしての干渉である。
たとえば,オッペンハイムは,『干渉とは,現状を維持し,または変更するために,一国が他国の事項に命令的に介入することである。……厳密な意味での干渉は,つねに命令的介入であり,単なる介入ではないことが強調されなければならない』。」(上記2~3頁)
「国の自由な活動の展開を妨害する外部からの介入は,それが命令的・威圧的なものであるか,または法的に保護される他の国家的利益の侵害を伴うかぎり,国際法上違法な行為とされる。
国の自由の領域に対する命令的でない介入,たとえば,単に批判し,抗議し,希望を述ぺ,勧告するといった形でかかわりをもつことは,そのこと自体違法ではなく,それもまた禁じられないという意味で自由な行為である。」(同6頁)
とされています。
2017年11月米サンフランシスコ市が慰安婦像の市有化を決めたことに対し,2018年7月大阪市がこれを撤回するよう書簡で求めたという例もあります。
https://www.asahi.com/articles/ASLB16WN1LB1PTIL02Z.html
当然ながら,要求内容の当否は問題ではありますが,国際法上違法な内政干渉かというとそうではないということになります。
ちなみに,私の立場は,2020年8月15日村山元首相談話「過去を謙虚に問うことは日本の名誉につながる。侵略や植民地支配を認めない姿勢こそこの国をおとしめる」と同じです。「悪いことをしたら素直に認めて謝る」というのは,多くの親が子どもによくよく言って聞かせていることだと思うし,伝統的な価値観にも合致すると思います。村山首相の戦後50年談話,安倍首相の戦後70年談話,そして岸田外相の日韓慰安婦合意時の発表内容は日本が認めたものとして世界に受け止められているはずで,これらの内容すら認めない姿勢はまさに日本をおとしめ,不信感を招き,国益を害していると思います。
2020年7月12日付当ブログで,尖閣諸島周辺における中国公船については「領海に入ったからダメ」ではなく「無害通航権を逸脱しているからダメ」というのが日本側の立場ということになる旨述べましたが,この「内政干渉」もまた,どこからが国際法上許されないことなのかがあまり意識されないまま主張がなされている事柄だと思います。(小池)