死亡危急時遺言
3月28日の市民向け法律講座「遺言相続の基本」につきましては、早々にお問い合わせやご予約をいただいており、心より感謝申し上げます。
これにちなんで(?)、私の方からは、死亡危急時遺言を作成したときのことを書いてみたいと思います。
死亡危急時遺言とは,遺言者の死亡が切迫しているとき、証人3名の立ち会いのもと、遺言者が述べた内容を証人の1人が書き取り、これを遺言者に読み聞かせて確認する、というかたちで作成される遺言です。
ある日,遺言を作成したいので来てほしいと連絡がありました。
私は、早速出向き,希望される遺言内容をお聞きしました。
そして、公証人の先生とスケジュールを合わせて公正証書遺言を作成するつもりで、言いました。
「来月また参ります。」
その場の空気が凍りつきました。
同席していた方々によれば,その方は死期が間近で,いつ亡くなられてもおかしくないとのこと。
私はあわてて公証人役場に電話しましたが,予定も合わないし,公正証書遺言を作成するには出生以来の戸籍等を揃えてほしいとのことで,本籍地が遠いその方の場合揃えている余裕はありません。
そこで私は,死亡危急時遺言を作成することとしました。
一旦退出し,泥縄ではありますが,作り方をおさらいした後,他の証人2名とともに再度出向きました。ビデオ撮りの用意もして。
若干時間はかかりましたが,遺言者の方はしっかり遺言内容を口頭で述べ,無事確認まで完了しました。
遺言者の方は,その数日後,亡くなりました。
公正証書遺言であれば,間に合っていなかったものと思われます。
死亡危急時遺言の場合,その後「確認」と「検認」の手続をとる必要があります。
「確認」は,遺言が適正に作成されているかどうかを裁判所が確認する手続です。
確認の申立書を提出し,私も証人2名もそれぞれに調査官の調査を受けました。
事実上ものをいったのがビデオで,遺言者ご本人がきちんと意思表明していることを十分ご理解いただきました。
「確認」の審判を受けた後の,「検認」の手続は自筆証書遺言と同じです。
修習生が大勢見に来ていたので,講義しておきました。
3か月前なら彼らの方が私より知識鮮明だったはずですが,実務の世界は一度実際にやってみた人の方が偉いのです?!
今回私は死亡危急時遺言という方法をとりましたが,自筆証書遺言でも悪くはありません。
ないよりずっとよいことは勿論です。
ただ,誤りがあって無効になってしまったり,隠されたり,何より遺言者が自筆しなければならないという問題があります。
また,死亡危急時遺言は,本来は誰が筆記してもよいものです。
ただ,弁護士は,短時間で誤りの少ない文章を作ることに慣れていますし,誘導尋問にならない聞き方にも慣れています。
筆記者が結論を示して遺言者がうなづくだけだと,あとでビデオをみた人が「本人の意思を反映していない」と争うことにもなりかねません。
というわけで,ないほうがよいことではありますが,死亡危急時遺言を作成する必要がありましたら,どうぞご用命ください。
他の予定を押しのけてでも駆けつけたいと思います。
一度有効に作っていますので,ご安心ください?!(K)