4 「いじめ」と重大事態との因果関係の認定
(1)問題点
「いじめ」重大事態調査に際し、調査委員会への諮問事項には 「『いじめ』と重大事態との因果関係」が通常含まれています。
その際、上記3の「重大事態に至った原因」の解明がなされていれば、「いじめ」と重大事態の関連性の認定についても、大きな困難はないものと思われます。
しかし、重大事態の中でも自死、不登校と「いじめ」との因果関係の認定となると、厳密にこれを行うのであれば、難しいと思われます。
自死、不登校は、「いじめ」被害を受けた対象児童生徒本人の行動として表れるものですが、「いじめ」被害が本人の行動にどのように結びついているかは明らかではないこともある上、対象児童生徒本人が行動に至った原因が「いじめ」単独ではない場合もありうるからです。
精神疾患の発症も同様の難しさがあると思います。
(2)再発防止のための調査
判決は、行為による結果につき行為者に対して責任を追究する=賠償を命じ、あるいは刑罰を科すものですから、結果が行為によって起きたといえるか(行為と結果との因果関係)については、客観的な裏付けを要することになります。
因果関係について客観的裏付けがない場合には、判決では因果関係を認定できないことになります。
これに対し、重大事態調査は、当該重大事態への対処と当該重大事態と同種の事態の発生の防止のための調査とされています(法第28条第1項)。
すなわち、当該案件で重大な結果を防ぐにはどうすればよいか、同様の結果を防ぐにはどうすべきかを調査すべきものであり、誰にどれだけの非があるかを調査しその責任を追及するものではありません。
もしも重大な結果の原因が複数考えられ、その中に「いじめ」がある可能性が否定できないのであれば、学校・教育委員会は「いじめ」による同種の事態の再発を防止するための措置をとるべきということになるはずです。
したがって、「いじめ」が原因である可能性が否定できない以上は、調査委員会は「いじめ」と重大な結果の因果関係が存する可能性を認めた上で、「いじめ」の原因・問題点を検討し再発防止策を示すことになります。
こうした作用は、様々な調査委員会と類似していると思います。
たとえば、国土交通省の運輸事故安全委員会は事故の責任追及を目的とするものではなく事故の再発防止を目的とするものですから、航空機事故を調査した際に原因X(たとえば整備不良)と原因Y(たとえば隕石の衝突)がどちらも考え得る場合には、因果関係は認められないなどとはしないでしょう。原因X、Yのいずれについても因果関係が存する可能性を認めた上で、再発防止策の上で重要な原因X(整備不良)についてその問題点を指摘し防止策を示しているはずです。
なお、「いじめ」と学校の指導が相まって重大な結果の原因となっている可能性があるケース、「いじめ」以上に学校の指導が問題ではないかと思われるケースもあるところ、こうした場合に別途学校の指導を検討する調査委員会を立ち上げるのではなく、いじめ重大事態の調査委員会が調査することもありうるでしょう。
ア 自死の場合
立法の経緯からみても、法が「いじめ」による自死を防ぐことに主眼を置いていることは明らかです。
したがって、不幸にして自死の結果が発生した場合、調査委員会において、事案を解明した上で、再発防止策を作成する必要が高いでしょう。
一方、自死の原因は、複合的である場合もあり、児童生徒の「いじめ」自死とされる案件であっても児童生徒の個人的背景、家庭的背景等が関係している可能性もあれば、逆に従前「いじめ」自死とはされてこなかった案件であっても「いじめ」が関係している可能性もあります。
ところが、自死既遂事案においては本人の個人的背景を直接確認することは不可能ですし、第三者委員会が家庭的背景にまで踏み込んで判断することは困難が伴います。
そもそも、法第28条は調査の目的として、重大事態への対処と同種の事態発生の防止を挙げるところ、これらはいずれも学校ないし教育委員会のとるべき行動を示すことにつながるものです。
したがって、調査委員会としては、学校ないし教育委員会のとるべき行動を示すのに必要な範囲で「いじめ」と自死との関係を示せばよいとも考えられます。
具体的には、「いじめ」が自死の原因となるだけの性質の有無(さらには強度)といった形で判断を示すことが考えられます。
いかに個人的背景、家庭的背景があろうとも、自死の原因となるだけの性質を有する 「いじめ」は学校ないし教育委員会において防止するという行動が特に求められることには変わりはないからです。
真相解明も調査の目的ではありますが、生の事実そのものと、一定の評価を伴う因果関係では、意味合いは異なるといえるでしょう。
調査委員会が因果関係の有無という形では、必ずしも判断しなくてもよいのではないでしょうか。
イ 不登校の場合
不登校は、基本的には現在進行の問題です。
その際、不登校の原因解明は対応に資するけれども、原因を解明しなければ対応が不可能というものでもないでしょう。
むしろ、「いじめ」すなわち「心理的又は物理的な影響を与える行為」が存在するのであれば、これが不登校の原因となっているか否かを解明するまでもなく、 関係児童生徒、対象児童生徒に対しては指導・支援が必要というべきです。
一方、因果関係に深く踏み込むことは、場合によっては、本人に対する追及的な質問になる可能性(「あなたはあだ名で呼ばれたから学校に行かなくなったのですか」なんて聴くのが妥当とは思えません。)や、「いじめ」とは別個の本人ないし家庭のプライバシーに過度に介入する可能性もあり、調査自体が対象児童生徒にとって二次被害となりうるのだから、あらゆる案件において「行為」と不登校の因果関係について深く踏み込むべきものでもないでしょう。
「行為」が不登校の原因となっている可能性が否定できないのであれば、因果関係の有無に深く踏み込むまでもなく「いじめ」への対応としての支援・指導は必要であり、第三者委員会の調査としても、因果関係の有無に深く踏み込まないのが相当な場合があると考えられます。