3 重大事態に至った原因の認定
(1)原因解明の必要性
「いじめ」重大事態調査は、「事態」への「対処」と「重大事態と同種の事態の発生の防止」(法第28条第1項)を目的としています。
したがって、事実認定にあたっては、単に「いじめ」の生の事実を認定しただけでは足りず、当該「いじめ」の実態を踏まえ、重大事態に至った原因を解明し認定する必要があります(もっとも、学校の対応の問題点(下記6~)と内容が重複する可能性はありますので、そこで併せて記載することも考えられます。)。
重大事態の原因が不明であれば、これに対する「対処」方法も再発防止方法も決めかねるはずです。
(2)どのようにして解明するか
ア 何を、どのように受け止めて苦しんでいたのか
それでは、重大事態に至った原因を解明するにはどうすればよいでしょうか。
端的にいえば、対象児童生徒が何を、どのように受け止めて苦しんでいたのかを考察し解明することになると思います。
「何」については、まずは起きた出来事に目を向けることにはなります。
ただ、それだけでなく、対象児童生徒がどのような状況に置かれていたかについて、交友関係・集団内の地位・差別構造の有無等にも目を向ける必要があります。
また、下記6、7以下にみるような学校の問題点にも目を向ける必要があります。
「どのように受け止め」たかについては、対象児童生徒から聴取可能であればまずはそれによることとなります。
しかし、対象児童生徒の聴取はできないことがままあります。
また、聴取可能であったとしても対象児童生徒が自分の気持ちを十分に表現できるとは限りませんし、しかも言葉通りに受け取ってよいとも限りません。
ましてや本人ではなく保護者からの聴取では、なおさらそのとおりに受け止めるわけにもいきませんので、調査委員側で相当に想像力を働かせる必要があります。
イ 孤独感等からの逆算
もっとも、重大事態の場合、孤独感とか疎外感とか恐怖感とか絶望感とかをもつという受け止めになることが多いと思われます。
そこで、孤独感等から逆算して「この児童生徒は『何』ゆえに孤独感等をもつようになったのだろうか」という方向から「何」の方をつきとめていく=孤独感等をもつようになった原因は何かという観点で事実や交友関係、学校の問題点を見直してみるという思考方法もあると思います。
ウ 調査の成否を左右
重大事態調査の成否は、対象児童生徒が何を、どのように受け止めて苦しんでいたのかを、説得力をもって解明できたのか否かによるといっても過言ではないでしょう。
これを解明できれば、「いじめ」と重大事態の因果関係・関連性はもとより、学校の対応の問題点や再発防止策も明らかになってくるはずです。
エ 安易に「本人のせい」「保護者のせい」にしてはいけない
誤解をおそれずにいえば、重大事態調査によって判明した「いじめ」の事実についえは、これが重大事態につながるのか疑問に思えることも多いかもしれません。
そうした場合、「この程度の事実が重大事態に至るということは対象児童生徒本人の受け止め方や特性の問題だ」とか「保護者の過剰要求だ」といった方向に、調査委員会の議論が進んでしまう場合もありえます。
安易に「本人のせい」「保護者のせい」にしてしまったのでは、学校教育委員会の対応改善の契機とはならず、重大事態調査の意義は失われます。
有意義な調査とするためには、対象児童生徒が何を、どのように受け止めて苦しんでいたのかを、調査し考察し解明する努力が必要です。
(3)一見偶発的突発的にみえても
重大事態調査の対象となるような「いじめ」であれば、おそらく偶発的突発的なものであることは少ないのではないでしょうか。
一見偶発的突発的にみえても、それがなぜか対象児童生徒の深い悲しみにつながっていると思われる場合には、継続的な人間関係、差別構造が原因となっている可能性が十分あると思われます。
(4)留意点
重大事態の原因を認定する際には、訴訟のように合理的疑いを超えるほどの蓋然性は必要なく、可能性があればこれを認定してよい(しかも複数の可能性があればそのいずれをも認定してよい)というべきです。
訴訟は人に刑罰を科しあるいは財産を奪うことを可能とする手続である以上、事実認定には慎重さが求められます。
しかしながら、「いじめ」に対処する過程では、ある事柄が原因となっている可能性があればこれに対処しなければなりません。
もしも複数のことが原因である可能性があれば、これら全てに対処しなければならないのが原則です
もちろん、対処の方法は基本的に学校の裁量に委ねられているので、対処の濃淡は当然ありうるところです。