育鵬社に限らない公民教科書の問題点 領海における無害通航権
領土,領海,領空のいずれについても,「領域国の許可なく入ってはいけない」旨説明しておられる社会科の先生はいらっしゃるでしょうか。
領土,領空については誤りとはいえませんが,領海については誤りというべきです。
「領海内の航行に関してですが、すべての国の船舶は、沿岸国の平和や秩序、安全を害しない限り、原則として他国の領海を継続的かつ迅速に通航することができます。こうした権利を船舶の『無害通航権』といいます。沿岸国は外国船舶によるこの『無害通航』を原則として妨害してはならないとされています。」(平成26年版防衛白書)
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2014/pc/2014/html/nc012000.html
尖閣諸島周辺における中国公船については,「領海に入ったからダメ」ではなく「無害通航権を逸脱しているからダメ」というのが日本側の立場ということになります。
(参考 海上自衛隊幹部学校戦略研究会コラム)
https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-160.html
領土関係の記述の充実を評価項目とする教育委員会があるため,育鵬社自由社以外の各社も領土関係の記述を増やしてきました。
さすがに教科書検定がありますので,誤りと断定できる記述はありませんが,生徒の誤解を生みそうな記述は多々みられます。
東京書籍182~183頁には,領海領空への進入については言及がなく,排他的経済水域については「どの国の船も自由に航行でき,上空を飛行機が自由に飛行できます。」とされ,さらに公海自由の原則にふれています。これとの対比でいえば,領海への進入については何かの制約がありそうにはみえますが,それが何かは分かりません。領海にも同意なく入れないとの誤解が生じた場合に,これを払しょくする材料はありません。
日本文教出版181~182頁は,領海領空・排他的経済水域への進入については言及がなく,公海自由の原則にふれています。東京書籍同様の問題があります。
帝国書院173頁は,「国家の支配する領域は,領土,領海,領空の三つから構成され,不法に立ち入ることは認められていません(領土不可侵の原則)。」としています。「不法」が何かは不明といわざるをえません。領海にも同意なく入れないとの誤解が生じた場合に,これを払しょくする材料はありません。
育鵬社182頁は,「領土・領海・領空を不法に侵すことは国家主権の侵害です。」としています。帝国書院同様の問題があります。
教育出版196頁は,「他国の領海で平和や秩序,安全を害する通航を行うことや,領空に許可なく飛行機で立ち入ることは,領海侵犯あるいは領空侵犯となります。」としており,唯一無害通航権を意識した記述となっています。(小池)