2 調査方法
(1)出発点
特殊事例を除き、調査委員会の調査前に、学校や教育委員会による事実の確認(法第23条第2項参照。児童生徒へのアンケートや聴き取りを含む)が実施されているのが通常でしょう。
そして、これにより得られた資料とその取りまとめ、さらには保護者からの意見書等が初回会合で提出されることが通常と思われます。
まずはこれらにより事案を把握することとなるでしょう。
(2)原典確認
アンケートについてこれをまとめたもののみが資料として提出されている場合等には、原典を確認し、重要な記述を欠落させていないか等、確認する必要があると思います。
児童生徒の生の筆跡は、それ自体としても感じるものがあると思います。
(3)基本的文書の確認
学校にある会議録、対応の記録、調査の聴き取り記録等については、確認すべきでしょう。
若干補足すると、
職員会議録には、全教員が参加する職員会議のほか、学年会、生徒指導係会、教育相談係会、教科会などの会議録があります。学校では、職員全体で個別的な問題を協議することは少なく(せいぜい報告どまりのことが多い)、実質的な協議は学年会等で行うことが通常と思われます。
アンケートは、重大事態等があった場合にとられるものの他、定期的にいじめ等を察知するためにとられるものが存在する可能性があります。
家裁送致された案件については、家裁照会への回答(控)もあるはずです。
これら(2)(3)で挙げた文書は、必要なものはリスト化して事務局に提出を求めるとよいと思います。また、調査の進行次第で再度提出を求めるべきものも出てくることと思われます。
調査委員会への提出は、情報公開や個人情報開示の範囲にとらわれる必要はないはずです。
(4)独自調査の方針
事務局提出の資料等で事案を把握し、さらに追加文書を確認したところで、未解明な点や確認すべき点を洗い出し、調査委員会独自の調査、特に誰から聴き取るかについて、方針を立てることとなると思います。
対象児童生徒本人の聴取は、事実確認の上でも、また「苦痛」の認定の上でも重要ですが、必須というわけではありません(重大事態調査ガイドライン33頁)。
保護者については、事前説明(重大事態調査ガイドライン25頁)の際に、併せて聴き取り調査をおこなってもよいのではないでしょうか。
関係児童生徒の聴取は、学校であれば必須ですが(指導もありますし)、調査委員会の調査としても、手続保障の観点からは、不利益な事実認定をする際には聴取すべきでしょう(重大事態調査ガイドライン10頁)。一方、事実関係に特に争いがなく、対象児童生徒側から関係児童生徒からの聴取について特に意見がない場合や早期の調査完了を求められた場合など、関係児童生徒からの聴取を行わなくてもよい場合もあると考えます。
(5)誰が聴き取りを行うか
法第28条第1項所定の調査機関には「専門的な知識及び経験を有する第三者等の参加を図り、公平性・中立性が確保されるよう努める」(いじめ防止対策推進法案附帯決議・平成 25 年6月 19 日衆議院文部科学委員会、平成 25 年6月20 日参議院文教科学委員会)とされています。
これは「学校も教育委員会も、(いじめの)隠蔽もし、適切な対応もできてこられなかった」ことから「隠蔽を防ぐという観点、もう一つは複合問題のいじめに対してきちんとした対応をするというその専門性を確保するという観点」(平成 25 年6月 20 日参議院文教科学委員会における小西洋之参議院議員質問) によるものです。
この「隠蔽を防ぐという観点」からすれば、「いじめ」となる「行為」の存否自体が主たる問題となる事案では、特に十分な調査が必要ということになります。
その中でも「いじめ」による自死の場合、対象児童生徒本人が「行為」を訴えることができない以上、児童生徒、教員からの聴取を第三者委員が行う必要性は高いといえます。
とりわけポイントとなる教員からの聴取は、ある一個の「行為」に対する認識の有無、ある一個の同僚の発言内容が、後日法的責任の有無を左右しかねない場合もある以上、教育委員会事務局による聴取のみで終了することは原則として許されず、第三者委員が事務局の立会なしに聴取する必要性が高いと考えられます。
一方、関係者が多数に及ぶ事案では、第三者委員による聴取には限界がある以上、これを必須とすると聴取可能な関係者が限られることとなり、とりわけ 関係児童生徒の卒業が切迫している場合などは、事案の解明が不十分となる可能性があります。
したがって、こうした事案では、第三者委員会の指示に従って教育委員会事務局が関係者からの聴取を行い、その中で必要を認めた関係者について第三者委員が再度聴取を行うという方法をとることは許容されるのではないでしょうか。
(6)個別聴取
対象者は可能であれば一人ずつ聴くのが原則と思います。
夫婦をやっている人なら実感しておられるのではないかと思われますが(?!)、夫婦でも受け止めや意見が異なることはままあり、示唆に富む話があったりします。
とはいえ、児童生徒の聴取に親が同席を求めた際に、原則を貫いてよいかどうかは心理、医療の関係者の意見を求めるべきでしょう。
(7)聴取の手順
様々な手法はあるのでしょうが、一例として…
①あいさつ・自己紹介
②聴取の目的説明
私は自己紹介と併せて、今日の調査は事実関係の調査と同じような出来事の再発防止を目的としており、責任追及を目的としてものではないので、事実をありのままに話していただきたい旨述べていました。
なお、録音をする場合であれば、その了承をもらうのは当然でしょう。
③聴取
記録を読み、当該の方から聴き取るべき項目を予め決めておくことは大事です。
当該の方以外からは聴けない情報を聴けない情報を聴き漏らし、他の方から聴ける情報を聴いていたのでは勿体ないです。
④記録
事務局の立会を避けるべき事案には文字起こしを事務局に頼むわけにはなかなかいきませんし、秘密性の高い内容ですから外部業者に頼むのは問題でしょう(そもそもそんな予算もついていないでしょう。)。
質問しながら記録をとるのも大変なので、聴取時に限ってでも補助員(記録係)の使用を認めてもらうとかした方がよいと思います。
(8)児童生徒聴取の留意点
児童生徒、特に児童の聴取に際しては、心理的負荷が大きくなったり誘導になったりしないよう、留意する必要がありますが、この点について私は語るべき多くの言葉をもちません。
神奈川県弁護士会子どもの権利委員会の仲間である飛田桂さんが運営するNPO法人「子ども支援センターつなっぐ」の、次の情報など参考にしてください。
https://tsunagg.com/jfi/
また、調査委員の中には心理の専門家もおられることでしょうから、その方にご指導いただくのもよいでしょう。
(9)児童生徒からの聴取事項
児童生徒からは起きた出来事を話してもらうだけではなく、対象児童生徒の置かれた人間関係(関係児童生徒らとの関係のみならず、学級や部活動内での立場位置づけ、児童生徒相互間の親密度やその判断根拠等)、その他「対象児童生徒が何を、どのように受け止めて苦しんでいたのか」(後述する第5の3)を判断する材料を聴取できるとよいと思います。
(10)教員聴取の留意点
教員の方々においては、自分はちゃんと指導したのに保護者から理不尽なクレームを受け重大事態調査になってしまった、といった思いを持っておられたり、重大事態調査に恐怖を感じておられたりします。
そこで、調査の最初には、
・法律上の「いじめ」の定義
・法律上「疑い」があれば「重大事態」として調査がなされること
・関係児童生徒保護者から「いじめにより重大事態に至った」との申立があれば「疑い」は否定できないこと
・そのように「いじめ」を広く定義し申立があれば重大事態調査がなされるのは、「いじめ」と認識してきちんと対応せずに悲しい結果を招いてしまったという歴史を踏まえ、法律ができたことによること
と重大事態調査の意義を簡単に説明した上で、
・重大事態調査は事態に対処し再発を防止するため事実を明らかにする調査であって、誰かに賠償させるとか処分するといった責任を問うための調査ではないこと
・先生の御指導を問題とすることはあるけれども、それはあくまでも結果論として結果が生じないようにするにはどうすればよいか考えるためのもので、そのときの御指導について非難するというものではないこと
と責任や非難とはつながるものではないので、ありのままのところを率直にお話しいただきたい旨などを、聴取の前にご説明するのがよいでしょう。
関係児童生徒やその保護者の聴取の際にも、誰が悪いのか決めて非難するとか責任を問うための調査ではないことは、ご説明する方がよいと思います。
(11)教員の発言の尋ね方
児童生徒らから「甲先生が『A』と言った」と聴取したとします。
これを甲教諭の聴取にて「甲先生は『A』とお話しされましたか?」と尋ねると、甲教諭は「A」そのものズバリを発言していない場合には、否定なされるのが通常でしょう。
したがって、甲教諭への聴取の際には、上記のような尋ね方ではなく、「甲先生は(その場面で)どのようにお話をされましたか?」と、その場面でのお話(やりとり)を全部尋ねるのがよいと思います。
そうすると、たしかに「A」そのものズバリは発言していないまでも、児童生徒が「A」と理解してしまうであろう発言が見出されることが、ままあります。
児童生徒、というより、法律家でもない限り「『A』と発言した」と「『A』と理解される発言をした」をきちんと区別していない可能性は常にあるでしょうね。