2 何のために調査をするのか?
調査を行う際、様々な問題にぶつかると思いますが、最後は「何のために調査をするのか」に立ち返って判断することになると思います。
(1)重大事態に対処・同種の事態の発生の防止
重大事態への「対処」を文字通り解釈すれば、現に発生しているいじめをなくすということになるでしょう。
そのように解釈すると、自死事案の場合、既にいじめは終了してしまっていることになりますから、「対処」はありえず、同種の事態の発生の防止だけが目的になりそうです。
しかしながら、そのように解釈すると、いじめの中で最も深刻で、第1項第1号の筆頭に置かれている「生命」への被害が、「対処」の対象から外れることになるわけで、妥当な解釈とは思われません。
(2)せめて何があったか知りたい
少し長くなりますが、さまざまな学校事故・事件の調査や研究を行いその情報を発信する一般社団法人ここから未来の理事である武田さち子さんの著書「わが子をいじめから守る10カ条」152頁(2007年6月刊)から引用します。
生かされない教訓
いじめ事件はなぜ繰り返されるのでしょうか。私は、子どもたちの死が教訓として生かされていないことが大きな原因だと思います。
今まで行われてきたいじめ対策に最も欠けているものは当事者性だと思います。教師と児童生徒と保護者が遺族とともに、何があったか情報を共有し、どこが間違っていたのかを検証し、その反省を再発防止に生かすべきだと思います。専門家が別の場所で話し合って結論だけをもってきても、現場に問題解決の力は育ちません。当事者たちを主体に、周囲はサポートに徹するべきだと私は思います。
親には知る権利がない!?
親は学校を安全なところと信じて子どもを預けています。何かあれば教師が必ず連絡してくれるはずだと思っています。しかし現実には、学校・教師は知っていても、親だけには知らされていないことが多くあります。いじめられていると本人から相談があった、保健室に年中行っている、けがをした、体調が悪かった、友だちに「死にたいと言った」、言動がおかしかった、連絡なく学校を休んだ、自殺未遂をしたなど、子どもの命に関わる重要な出来事さえ、親に報告されていなかったりするのです。
そして事件後も、「知らせなかった」ことが問題視されることはほとんどありません。
親が真実を知ることができない理由は主に3つあります。
・学校が知っていることを教えない ・学校がうそをついている ・学校が調査をしない
わが子が大きなけがをしたり、死んでしまったとき、せめて何があったか知りたいと思うのは、親としての当然の感情ではないでしょうか。
たとえ、学校・教師・教育委員会が、何があったかを知っていたとしても、そのことを親に報告する義務はありません。学校が調査のために子どもたちに書かせた作文の内容は、プライバシーを楯に被害者の親が読むことを拒否されてしまいます。学校側が証拠の品を勝手に処分しても、嘘の報告をしても、それを理由に教師が処分されることはほとんどありません。法律的に、学校には親への報告義務がなく、親には知る権利がないからです。
(中略)
子どもが死亡するという最も重大な出来事が起きてなお、事実関係が明らかにならなければ、本来、遺族が受けられるはずの謝罪や補償さえ受けることができません。親は、何があったかを知ることなしには、子どもの死を受け入れることはできません。また、原因もわからずに、まともな再発防止策がとれるはずがありません。
(3)大津いじめ自死事件
次に、中国新聞2012年8月28日朝刊社説から引用します。
悲劇から10カ月余り。大津市の中学2年の男子生徒がいじめを受けた末に自殺したとされる問題で、原因を究明する第三者委員会がやっと動きだした。
教育評論家の尾木直樹氏をはじめ、外部の大学教授や弁護士5人という顔ぶれだ。少年は、なぜ命を絶たねばならなかったのか。生徒らの聞き取りも含めて事実関係を把握し、年内に報告書をまとめるという。
この事件を機に、教育現場や地域がいじめの根絶にどう取り組むかが再び問われている。真相の解明はもちろん、他のケースにも通じる再発防止策が打ち出されることを期待したい。
今回の第三者委は、さまざまな意味で異例ずくめである。
まずは学校教育を預かる教育委員会ではなく、市長部局が主導したことだ。遺族側の不信感を反映したといえよう。
遺族側はわが子の自殺はいじめが原因と強く訴えたが、学校や市教委は因果関係を認めなかった。しかも生徒アンケートで「自殺の練習をさせられていた」などの重要な証言が浮上していたのに伏せていた。
これでは「隠蔽(いんぺい)」と言われても仕方あるまい。市長が厳しく対応を批判し、市教委と切り離して再調査に乗りだしたのは当然だ。教育委員会の在り方にも警鐘を鳴らした格好になる。
こうした経緯を踏まえ、委員の人選に遺族の意向を最大限取り入れた点も画期的である。尾木氏ら3人がそうだ。さらに市は日弁連にも委員推薦を求めるなど公平性の担保に努めた。(以下略)
(4)立法趣旨
小西議員著書は6頁以下で立法趣旨にふれていますが、その中で小西議員は「いじめを巡る構造的問題」として
③いじめの事案対処
・個々の教職員の対応能力の不足があるとともに、学校の組織的な対応能力にも不足があることから、抱え込みや放置、隠ぺいなど不適切な対処がなされることがある
を挙げた上で、「重大事態に至るいじめ事案が生じた際には、教育委員会や地方公共団体の長のもとに外部専門家からなる特別の附属機関等を設け、被害児童生徒サイドへの説明責任等の責務を全うしつつ、真相解明と再発防止の取組を行うこととしています(第28条、第30条等)。」としています。
(5)真相解明も含まれる
上記(2)の親の思い、(3)の大津いじめ自死事件における隠ぺい体質批判を踏まえ、法が制定され重大事態調査の規定が置かれたことが、(4)からも明らかでしょう。
したがって、法第28条第1項の「対処」には、真相解明も含まれると解すべきで、そう解してこそ同条第2項の保護者等に対する情報の適切な提供も意味を持つと考えられます。
したがって、自死事案、卒業生の事案でも調査対象ということになります。
この立場を前提に、以下書き進めていきたいと思います。