2 「いじめ」の認定 (1)「そんなのは、いじめではない」

2024-01-14

2 「いじめ」の認定
 認定された事実を前提に、「いじめ」かどうかを認定することとなります。
この点は社会の関心を引くものです。
しかしながら、下記にみるとおり、「いじめ」の定義を広くしている以上、「行為」の存在が認められる限り通常は 「いじめ」が認められることになるでしょう。(単純に「いじめ」の有無を問題とする風潮は早く改まってほしいものです。)
 「いじめ」の認定に際し、調査委員会でよくある議論について、以下述べたいと思います。


(1)「そんなのは、いじめではない」
ア 広い定義
 文部科学省(文部省)では1986(昭和61)年度以降、いじめとは「①自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、②相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」と定義していました。
 ところが、文部科学省は2006(平成18)年度以降、「いじめ」とは「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」と定義を変更しました。 
 「自分より弱い者」「一方的」「継続的」「深刻」との限定がなくなり、いじめの定義は広くなりました。
 そして、いじめ防止対策推進法第2条では「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義され、「攻撃」の要件もなくなりました。
 このように「いじめ」が広く定義されたことは、どのように理解すべきでしょうか。


イ 事案検討
 1986(昭和61)年は「葬式ごっこ」等に起因する東京都中野区立中学校のいじめ自死事件が発生した年ですが、同年以降発生したいじめ自死事件を省みると、自死生徒の受けた行為が教員からみて必ずしも「一方的」「継続的」「深刻」ではなく、行為生徒より自死生徒が「弱い者」であることも明確とはいえないものがあります。
 1994(平成6)年7月15日に発生した津久井町立中学校での男子生徒(「Y」とする。)の自死事件につき、横浜地裁平成13年1月15日判決(この判決の事実認定は、東京高裁平成14年1月31日判決でも維持)は、1994年4月の転入から同年7月の自死までにYとの関係で生じたトラブルのうち、担任の認識していたものについて、概略次のように認定しています。
(ア) hがYの机を持ち出し、教科書を窓から外へ投げ出した。
     (Yがhに悪口を言ったことがきっかけ)
(イ) gがYの机などを廊下に蹴り出した。
     (Yの言葉がきっかけ)
(ウ) gが教科書を窓から投げ捨てた。
(エ) Yの机の上にいたずら書きがしてあった。
(オ) bとYが教科書を投げ捨てるなどのけんかをした。
     (Yはbに「オカマ」などと言っていたのがきっかけ)
(カ) iが黒板消しでYの机や椅子にチョークの粉を付けていた。
     (Yはiに悪口を言いiが追いかけてくると跳び蹴りをしたのがきっかけ)
(キ) 二年三組生徒らが、Yの机や椅子に、チョークの粉をつけていた。
     (Yは相手がわかった場合はやり返していた)
(ク) Yの手を押さえるなどのトラブルがYとcにより起きた。
     (Yがcに頭を叩かれたと誤認したのがきっかけ)
(ケ) jが、じゃんけんゲームでYの頬にあざを作った
(コ) gが、Yの写真に画びょうを刺した
     (Yはgの写真に刺しかえした。)
(サ) Yとeがつかみあっていた。
     (Yがトラブルからeに電池を投げつけたことがきっかけ)
(シ) テストの点数ののぞき見がきっかけで、Yがaを殴るなどのトラブルが起こった。                                 (     aがYの教科書を捨てたことが殴るきっかけ)
(ス) dがYのカバンを持ち、校舎内を走りまわった。
     (Yとの悪口の言い合いが原因)
(セ) iらがYの机、教科書などにマーガリンをつけた。
     (Yがiの頭をほうきでたたくなどしたことがきっかけ)
 上記(ア)~(セ)の出来事について、担任は個別的偶発的なトラブルととらえ、継続的にYに対して行われていたものとは認識しておらず、また、Yの関与するトラブルが多いとは認識していたものの、事情を聞いてみるといわばお互い様のところがあったことから、Yが精神的負担を感じているとは思わなかったとされています。
 しかしながら、相互に攻撃し合うトラブルが単独であれば、対象生徒も他生徒もそれぞれ「1」の苦痛といえるかもしれませんが、対象生徒が12名の生徒とトラブルを起こせば、他生徒は各「1」の苦痛である一方、対象生徒は「12」の苦痛となり得ます(後で詳述します。)。
 一見双方向性のトラブルで対象生徒にとって「個々の行為自体の加害性はさほど大きくなかったとしても、継続、累積により心身の負担が増大し、著しく精神的、肉体的苦痛を被る結果となる。」(上記横浜地裁判決)可能性があるわけです。
 また、対象生徒がきっかけを作り出していようと反撃をしていようと、なされた行為により苦痛を受けることについては変わりなく、これが自死につながる可能性があるわけです。
 2006(平成18)年度以降、いじめの定義から「自分より弱い者」「一方的」「継続的」「深刻」との限定がなくなったのは、上記のような事件の発生防止を意図したものと理解すべきでしょう。

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