第3 調査の開始にあたって 1 調査の開始
(1)疑いがあれば重大事態
法第28条第1、2項は次のとおり規定しています。
1 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童生徒の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童生徒が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童生徒及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
すなわち、「疑い」があれば「重大事態」に該当し、調査を行わなければならないことになっています。
「児童生徒や保護者から、いじめにより重大な被害が生じたという申立てがあったときは、その時点で学校が『いじめの結果ではない』あるいは『重大事態とはいえない』と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たる。児童生徒又は保護者からの申立ては、学校が把握していない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないと断言できないことに留意する。」(国のいじめ防止基本方針32頁)必要があります。
そして、「調査結果において、いじめと重大な被害との関係が一切認められないなどの結論に至った場合でも、そのことにより遡及的に重大事態に該当しないことになるわけではない」(重大事態調査ガイドライン12頁)とされています。
なお、2024年改訂後の重大事態調査ガイドラインでは「法第28条第1項では、「疑い」がある段階で調査を行うとしていることから、確認の結果、申立てに係るいじめが起こり得ない状況であることが明確であるなど、法の要件に照らしていじめの重大事態に当たらないことが明らかである場合を除き、重大事態調査を行い、詳細な事実関係の確認等を行う必要がある。」(同14頁)とされていますが、「いじめの重大事態に当たらないことが明らかであるというためには、例えば、いじめの事実が確認できなかっただけでは足りず、設置者または学校においていじめの事実が起こりえないことを客観的・合理的な資料等を用いつつ、説明する必要がある。」(同15頁)とされており、「いじめの重大事態に当たらないことが明らか」として重大事態調査が行われない場合は容易には想定できないと思います。
法の定めに忠実に従えば、重大事態の件数が全国で年間1000件程度で済むはずもなく、貧弱な調査体制を前提にすれば、重大事態の件数を入り口で絞りたいという考えもあるのでしょう。
しかし、「いじめ」が深刻かどうか判断する際には第三者の眼を入れ深刻な「いじめ」の隠ぺいを許さない、というのが立法趣旨とするならば、入り口で絞ることはしてはならないように思います。
入り口で絞らずに必ず第三者の眼は入れるものの、その後事案により調査を簡略にする(調査報告書の具体的項目までは法で定められていませんので)といったことにするしかないのではないでしょうか。
それにしても、法で重大事態調査を規定し、その数がまともにやれば年間万単位になるであろうにも拘わらず、調査に必要な予算をつけないという国の姿勢は、理不尽です。
(2)重大事態の意味
重大事態の意味については、国のいじめ防止基本方針では、
「いじめにより」とは、各号に規定する児童生徒の状況に至る要因が当該児童生徒に対して行われるいじめにあることを意味する。
法第1号の「生命、心身又は財産に重大な被害」については、いじめを受ける児童生徒の状況に着目して判断する。例えば、
○ 児童生徒が自殺を企図した場合
○ 身体に重大な傷害を負った場合
○ 金品等に重大な被害を被った場合
○ 精神性の疾患を発症した場合
などのケースが想定される。
法第2号の「相当の期間」については、不登校の定義18を踏まえ、年間
30日を目安とする。ただし、児童生徒が一定期間、連続して欠席してい
るような場合には、上記目安にかかわらず、学校の設置者又は学校の判断
により、迅速に調査に着手することが必要である。
とされていることに注意してください。