黄泉の国からのメッセージまたはジャーナリストのみたイラク戦争shoothing vs shoothinng)

2013-09-16

1 先週のNHKBSの連続イラク戦争特集は時宜を得た企画であった。シリア空爆問題に揺れる今日、過去同じように空爆問題で揺れたイラクで空爆後、なにが起きたのか知らされた。特にジャーナリストのみたイラク戦争は、みていて恐ろしくなる。報道する者の使命と危険性について考えさせられる番組である。
 戦争においてジャーナリストが死傷する割合は多い。偶然に、戦闘に巻き込まれて死傷する者もいるが、都合の悪い報道をするので各軍から睨まれ狙い撃ちにされて殺される例もあるらしい。狙い撃ちにするのはアメリカ軍にこともあるし、アルカイーダ等のこともある。狙い撃ちとはいえなくとも、占領地で、一方が殺傷兵器をもち、他方は武器を持たない場合、何か不審なことがあり、あるいはなにか気に入らないことがあった場合、過剰に反応して攻撃的になることは大いにありうることである。ここで自制することはおそろしく困難であろう。
2 ジャーナリスト個人だけではない。アルジャジーラなど放送局などは何度も爆撃にあっている。アメリカは単なる誤爆という。しかし、イギリスの新聞報道でその真偽はわからないが、ブッシュ大統領がブレア首相にアルジャジーラの本部を爆撃することを提案し、拒絶されたという報道もある。
アルジャジーラの報道がFOXニュースなどと異なり、アメリカにとって都合の悪い事実を報道してきた。BSニューズをみていてアルジャジーラの色合いの違いは確かに感じる。これに対して批判的に報道される軍は放送局に対して不快感を持つだろう。
3 ところで、もっと恐ろしいことがある。犯人がわかっていながら手をだせないことである。アメリカ軍の場合、かなり命令系統がはっきりしているので誰が撃ったかもわかるらしい。そして、こともあろうに狙撃者がテレビのインタビューに答えている。
 たとえば、ジャーナリストが多数あつまるホテルに銃弾を撃ち込んだ兵士は弁明する「敵に攻撃されて近くのホテルに怪しい者がいた、上司に確認をとり、命令がでたので撃った」と実直そうにこたえる。嘘ではないように思える。しかし、ホテルに目立つ人がいたとして、敵の可能性もあるが、敵ではない無関係な人である可能性もある。敵である可能性があるから発砲するということは敵でなかった場合に犠牲にされてもいたしかたないということである。正当防衛を主張するなら、急迫性、やむをえざる手段であったか議論の余地がある。少なくとも、事後的に検証されなければならない。
 また、たとえば、イタリア人女性のジャーナリストが捕虜になり、イタリア政府が解放したケースがある。イタリアの諜報員が救出に行く。救出は成功し女性ジャーナリストを保護し、イタリアに帰ることのできるところで、検問があり、砲撃にあい、諜報員は死亡した(ジャーナリストは助かった)。最初テロリストの発砲であると思われていたが、事実は、アメリカ軍から発砲であることがわかる。発砲した兵士が特定され、その一人は弁明してインタビューにこたえて「あの女性はテロリストと接触しようとしてつかまり有能な人員を送り込まなければならなくなった。あのような事態をまねいたのはわたしのせいではなくあの女性の責任です」という。訳のわからない弁明である。これでは自分の行為が弁明できないことを自白しているようなものである。ところが、アメリカ軍の統治下の裁判により兵士は全員無罪になる。アメリカ国防総省が協力しなかったのでイタリアをはじめ各国は責任追及できなかった。これはひどい。少なくとも業務上過失致傷、場合によっては殺人罪に該当する行為をしておきながら、真実があきらかにならず、闇から闇に葬り去られる。
4 戦争は異常事態である。なにが起こっているのか普通はわからない。紛争当事者は命がかかっているので、とうてい客観的な事実を知らせるとは思えない。そうすると、ジャーナリストの報道は重要である。現地の紛争の状況如何によって大きな政治的決定がくだされることが多いのでなおさらのことである。
 最後に、この番組のインタビューに多数のジャーナリストが出演して報道の使命や危険性を訴える。しかし、インタビューにこたえていたジャーナリストの大半が2013年(番組がつくられたのは2011年)の現在に死んでいる。殉死である。すでに死んでいていない筈なのであるが、インタビューに生き生きとこたえていることに不思議な感じにとらわれる。死者の生前のメッセージであるはずなのだが、黄泉の国からのメッセージのように思えてくる。誰にあてたメッセージであろうか。番組は問いかける。恐ろしい番組である(山森)

以下番組の紹介である。
ジャーナリストたちの“戦場”
2013年9月12日 木曜深夜[金曜午前 0時00分~0時50分]

2003年のイラク戦争開始以来、戦場で死亡したメディア関係者は300人以上と言われ、中には味方の銃弾によって命を落とした者もいる。
軍と民間を合わせて100万人の死者を出したイラク戦争。開戦当時は世界中のメディアが押し寄せた。その最中バグダッドで、100人以上のメディア関係者が集まっていたホテルにアメリカ軍の戦車が砲撃を行う。中にいたジャパン・プレスの山本美香さんらが駆けつけると、ロイターのカメラマンが瀕死の重傷を負っていた。砲撃した兵士は「許可を得て行った」と語る。同じ日、アルジャジーラのオフィスにもアメリカ軍のミサイルが撃ち込まれた。
一方、従軍記者らは共に行動するアメリカ軍兵士に寄り添いすぎない報道姿勢を貫こうと腐心していた。真実を伝えようと苦悩し、時に倒れていったジャーナリストたちの姿に迫る。
原題:Shooting vs. Shooting
制作:CL Productions,Faliro House Productions (ギリシャ 2011年)

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