「私が差し出せるのは血と労苦と涙と汗だけだ」または演説の伝統

2015-12-26

フランスが制作したチャーチルのドキュメンタリー(「ウィンストン・チャーチル~20世紀の巨人~」)で演説の力について考えさせられた

演説に曰く

「私が差し出せるのは血と労苦と涙と汗だけだ

我々の前途には過酷な試練長い試練と苦しみが待ちかまえている

我々の目的はただ一つ勝利である

あらゆる犠牲を払い

あらゆる恐怖に耐え

困難な道のりの果てに

必ず勝利をつかむ」

チャーチルの毅然とした態度、威厳、未来への信念、勝利への確信がイギリス国民を鼓舞し、イギリスを勝利に導いたという(ドキュメンタリーのセリフから)。

なぜ、チャーチルが偉大な政治家といわれるのか、長らくわからなかったが、番組をみて少しわかったような気になった。ナチスドイツとの戦争で、敗戦の雰囲気が濃厚になったイギリスにあって、これに果敢に抵抗し、最後には勝利に導いた立役者であった。その際、チャーチルの演説は大きな力を発揮した。チャーチルに限らず、欧米では国民を鼓舞するような名演説は多いように思う(リンカーンからオバマまで)。

他方、日本で国民を鼓舞するような名演説というと(私の無知かもしれないが)あまり思い浮かばない。強いていうならば、国民を鼓舞するというにはほど遠いが、淡々としているが胸にしみいる内容の天皇の言葉か(例えば最近の例でいうとhttp://www3.nhk.or.jp/news/html/20151223/k10010350441000.html

しかし、よく考えてみると、日本人が、演説が苦手というわけではない。追悼演説であるならば、少し考えるだけでも尾辻秀久の山本孝史哀悼演説(http://www.otsuji.gr.jp/index.htm)のように声涙倶に下るような名演説は多いように思う。演説とは少し異なるが、最近でもNHK視点論点「次世代への遺産」において、鶴見俊輔、桂米朝、南部陽一郎、佐木隆三等の業績について故人をよく知る人が語る言葉は胸をうつ。

そうすると、日本でも人を鼓舞するような名演説はあるが、少しスタイルが異なっていて、日本の場合、万葉集風にいうと「たをやめぶり」の演説が得意で、欧米は「ますらおぶり」の演説が得意ということか(山森)。

以下、番組の紹介文である。

BS世界のドキュメンタリー選「ウィンストン・チャーチル~20世紀の巨人~」

ヨーロッパ戦線にアメリカを引き込むことに成功し、第二次世界大戦での連合国の勝利に大きく貢献したウィンストン・チャーチル(1874-1965)。しかし政治家としてのキャリアは輝かしいばかりでなく、浮き沈みのあるものであった。20世紀の覇権争いの核心にいたチャーチル。母の祖国アメリカとのつながりや、絵画や文学の才能(1953年ノーベル文学賞受賞)など、さまざまな角度からその人物像が描かれていく。

 

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