藤沢で使用されている育鵬社教科書にはこんな問題が…⑨わかりにくいのは必然

2015-07-10

 4年に1度の中学校教科書採択。
 多くの箇所で教科書展示会も終わり,早いところでは7月中にも採択のための教育委員会が開かれます(藤沢市も)。

 これまで数回にわたり,育鵬社公民教科書の問題点を指摘してきましたが,あらためて指摘いたしましょう。
 育鵬社公民教科書には,わかりにくいという,教科書にとってある意味致命的な欠陥があります。
 しかも,この欠陥は必然です。

 再三述べたとおり,育鵬社公民教科書の特質は,一言でいえば,日本国憲法の三原則をなおざりにし,原則に対して例外的なことがらを強調するところにあります。
 つまり,国民主権をなおざりにして,天皇を強調し,
     平和主義をなおざりにして,自衛隊・日米安保条約を強調し,
     基本的人権の尊重をなおざりにして,人権の制約を強調し,
というのが特質です。
 そして,こうした特質をもつ教科書で授業すれば,わかりにくいのは必然です。
 なぜか?

理由1 原則を理解すること自体,そう容易ではありません。
    なおざりな説明では,原則がわかりにくいのは当然です。
    それどころか,わざとわかりにくく書いたのではと疑われるところも見受けられます。
    詳しくは「自由法曹団意見書」14頁立憲主義を参照。

理由2 原則の話に加えて,例外の話をたくさん書くことになります。
    その結果,記述内容が他社より多くなりがちです。
    記述内容が多くなれば,一つの内容に割ける時間は減ります
    必然的にわかりにくくなります。
   
理由3 原則の話に加えて例外の話をたくさん書くと,全体としてスペース不足にもなります。
    その結果,重要な説明が欠落している部分が目立ちます。
    入試でも困ることになりかねません(ブログ⑦第3,第4参照)。
  
理由4 原則と例外のうち,例外の方が重要と感じるよう誘導しています。
    その結果,生徒たちは原則の重要性を「誤解」する可能性があります。
    たしかに,例外の方が重要とする人たちもたくさん(※注)いるでしょう。
    その人たちの立場からは「誤解」ではなく「正しい理解」なのでしょう。
    しかし,学習指導要領はそのような立場ではありません(ブログ④参照)。
    入試問題は基本的に,学習指導要領の立場(あるいは多数学説の立場)で作成されます。
    「誤解」は誤答につながりかねません(ブログ⑦第2参照)。
(※注)
菅官房長官は「(安保法制が)全く違憲でないと言う著名な憲法学者もたくさんいる」として学者の名を挙げました。
たくさんの学者中,3分の2もの学者が育鵬社教科書の著作関係者に名を連ねています(長尾一紘氏,百地章氏)。

理由5 そもそも,原則に対する例外を強調する説明は,わかりにくいことが多いです。
    天皇機関説(美濃部達吉)や民本主義(吉野作造)をご存じでしょうか。
    これらは,大日本帝国憲法の下で,民主的政治を目指した努力といえます。
    その努力は高く評価されるべきです。
    ただ,残念ながら,少なくとも私にとっては,わかりにくいです。
    大日本帝国憲法の原則では,あくまでも神聖不可侵の天皇が主権者で,国民は臣民です。
    その下で,例外的な民主的要素を強調するには,わかりにくい説明が必要なのでしょう。
    育鵬社の公民教科書も同じ問題をはらみます。
    日本国憲法の下で,例外的な事柄を強調した場合,説明がわかりにくいのは必然です。
    ただし,平和主義については完全に邪魔者扱いして改憲に誘導しているので,
    ある意味わかりやすいですが…
    詳しくは「自由法曹団意見書」5頁平和主義を参照。

 以上にみたとおり,日本国憲法の三原則をなおざりにし,原則に対して例外的なことがらを強調する教科書を用いて授業をすれば,わかりにくいのは必然です。
 育鵬社公民教科書がわかりやすくなることがあるとすれば,それは日本国憲法の三原則が改められた場合でしょう。

育鵬社の採択に問題あり! と考えられる方は,声を上げましょう!!
(1)まだ教科書展示会を行っている地域であれば,展示会へ行って意見を書きましょう。
    「神奈川県教科書展示会・会場と日程」
(2)市町村のホームページを通して,意見を述べましょう。
    「藤沢市インターネット意見」
    「横浜市市民からの提案」
    「大阪市区政・市政へのご意見等」
    「名古屋市政へのご意見」
    「東大阪市政への意見」
(3)教科書採択を行う教育委員会を傍聴しましょう。
    「藤沢市教育委員会平成27年7月定例会」
(小池)

    
    

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