自動車保険…極めて特殊な商品

2019-11-22

普通の商品は,誰に利益をもたらすか?
普通はお金を出して買ってくれた人に利益をもたらす。

りんごであれば,買った人がおいしい思いをし,また栄養になる。
建築物であれば,買った人が使ったり,または貸してお金を得る。
生命保険であれば,買った人が万が一のときには給付を受ける。

自動車保険はどうか?
万が一のときに給付を受けるのは被害者であって,買った人ではない。
(注 話を簡単にするために,対人対物賠償責任保険のみ念頭に置く。)
買った人はたしかに,賠償しなくてよいという意味では利益を得る。
しかし,保険の主たる役割が給付であるとするならば,利益を受けるのは主に被害者ということになる。
いわば,「顧客と受益者の分離」という実態がある。

他の商品なら,「ちょっと高いけどおいしいんだ」「ちょっと高いけど特殊な治療もカバーされるんだ」という具合に,利益の多さがアピールポイントになることもある。安いばかりがアピールポイントではない。

これに対して,自動車保険はどうか。対人対物無制限でありさえすれば,利益の多さはセールスポイントにならない。
「うちの保険会社は被害者に気前よく払います」といわれて,これにひかれる人はいないだろう。
買う人へのアピールポイントは,ほぼ「保険料が安い」に尽きることになる。

近年,インターネット上で契約等ができる自動車保険が増加し,特に新興勢力は保険料の安さを売りにしている。

それでは,保険料を安くするにはどうすればよいか?
業務の効率化などというものには一定の限界があるだろう。
やはり,手っ取り早くは,給付を減らすことだろう。

他の商品であれば,「あまり質が悪いと安くても売れない」という形で,質の悪化に歯止めがかかる。
しかし,自動車保険は,「顧客と受益者の分離」のため,そうした歯止めはないことになる。

自動車保険って,安さを競争してよい商品なのか?(小池)

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