(4)独自調査の方針(5)誰が聴き取りを行うか(6)個別聴取(7)聴取方法(8)聴取の手順

2021-12-26

「いじめ重大事態調査委員(いわゆる第三者委員)となる方のために」の連載記事です。目次とあわせ,お目通しください。(小池)

(4)独自調査の方針

 事務局提出の資料等で事案を把握し,さらに追加文書を確認したところで,未解明な点や確認すべき点を洗い出し,調査委員会独自の調査,特に誰から聴き取るかについて,方針を立てることとなると思います。

 被害本人の聴取は,事実確認の上でも,また「苦痛」の認定の上でも重要ですが,必須というわけではありません(不登校重大事態に係る調査の指針5頁)。

 保護者については,事実確認を兼ねて,情報提供(法28条第2項)や調査についての希望の聴取を行うとよいでしょう。

 加害生徒の聴取は,学校であれば必須ですが(指導もありますし),調査委員会の調査としても,手続保障の観点からは,不利益な事実認定をする際には聴取すべきでしょう(いじめの重大事態調査に関するガイドライン10頁)。一方,事実関係に特に争いがなく,被害児童等側から加害生徒からの聴取について特に意見がない場合や早期の調査完了を求められた場合など,加害生徒からの聴取を行わなくてもよい場合もあると考えます。

(5)誰が聴き取りを行うか

法第28条第1項所定の調査機関には「専門的な知識及び経験を有する第三者等の参加を図り,公平性・中立性が確保されるよう努める」(いじめ防止対策推進法案附帯決議・平成 25 年6月 19 日衆議院文部科学委員会,平成 25 年6月20 日参議院文教科学委員会)とされています。

これは「学校も教育委員会も,(いじめの)隠蔽もし,適切な対応もできてこられなかった」ことから「隠蔽を防ぐという観点,もう一つは複合問題のいじめに対してきちんとした対応をするというその専門性を確保するという観点」(平成 25 年6月 20 日参議院文教科学委員会における小西洋之参議院議員質問) によるものです。

この「隠蔽を防ぐという観点」からすれば,「いじめ」となる「行為」の存否自体が主たる問題となる事案では,特に十分な調査が必要ということになります。

その中でも「いじめ」による自死の場合,被害児童等本人が「行為」を訴えることができない以上,生徒,教員からの聴取を第三者委員が行う必要性は高いといえます。

とりわけポイントとなる教員からの聴取は,ある一個の「行為」に対する認識の有無,ある一個の同僚の発言内容が,後日法的責任の有無を左右しかねない場合もある以上,教育委員会事務局による聴取のみで終了することは原則として許されず,第三者委員が事務局の立会なしに聴取する必要性が高いと考えられます。

一方,関係者が多数に及ぶ事案では,第三者委員による聴取には限界がある以上,これを必須とすると聴取可能な関係者が限られることとなり,とりわけ 関係生徒の卒業が切迫している場合などは,事案の解明が不十分となる可能性があります。

したがって,こうした事案では,第三者委員会の指示に従って教育委員会事務局が関係者からの聴取を行い,その中で必要を認めた関係者について第三者委員が再度聴取を行うという方法をとることは許容されるのではないでしょうか。

(6)個別聴取

 対象者は一人ずつ聴くのが原則と思います。

 夫婦をやっている人なら実感しておられるのではないかと思われますが(?!),夫婦でも受け止めや意見が異なることはままあり,示唆に富む話があったりします。

 とはいえ,生徒の聴取に親が同席を求めた際に,原則を貫いてよいかどうかは心理,医療の関係者の意見を求めるべきでしょう。

(7)聴取方法

 委員の中の心理医療関係者に,特に生徒の聴取に際しては着座位置等聴取方法についてお知恵を拝借して,圧迫の少ない聴取とすべきでしょう。

(8)聴取の手順

 様々な手法はあるのでしょうが,一例として…

①あいさつ・自己紹介

②聴取の目的説明

 私は自己紹介と併せて,今日の調査は事実関係の調査と同じような出来事の再発防止を目的としており,責任追及を目的としてものではないので,事実をありのままに話していただきたい旨述べていました。

 なお,録音をする場合であれば,その了承をもらうのは当然でしょう。

③聴取

 記録を読み,当該の方から聴き取るべき項目を予め決めておくことは大事です。

 当該の方以外からは聴けない情報を聴けない情報を聴き漏らし,他の方から聴ける情報を聴いていたのでは勿体ないです。

④記録

 事務局の立会を避けるべき事案にはテープ起こしを事務局に頼むわけにはなかなかいきませんし,秘密性の高い内容ですから外部業者に頼むのは問題でしょう(そもそもそんな予算もついていないでしょう。)。

 質問しながら記録をとるのも大変なので,聴取時に限ってでも補助員(記録係)の使用を認めてもらうとかした方がよいと思います。

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