千田是也または関東大震災のこと

2016-10-10

千田是也は高名な演出家である。ただ、千田にはやや偏見を持っていた。東ドイツが崩壊する直前の1980年代映像作家高岩仁が「エルベ川東のドイツ」という本を出版した。ホーネッカー体制の東ドイツを賛美する本である。その際、千田は高岩仁でなければできない仕事として絶賛していた。それからしばらくたちベルリンの壁は破れ、東ドイツの政治体制は崩壊した。その際、千田は再び、東ドイツの体制を倒すために闘った人々は自分の旧知の演劇人であり大いに愉快であるといってこれまた絶賛していた。いささか、ご都合主義的な人間であるという印象をもった。
しかし、千田是也の芸名の由来を知り考え直した。
関東大震災のとき流言飛語が流れ多くの朝鮮人虐殺事件が発生した。朝鮮人と間違えられた日本人もいた。演出家千田是也もその一人である。千駄ヶ谷でコリアと間違えられて殺されかけた。歴代の天皇の名前をいって助かったという。九死に一生を得た鮮烈な経験であったのだろう。その時の経験をきっかけに芸名を千駄ヶ谷コリアすなわち千田是也にしたという。よりにもよって、殺されかけた経験を契機に自分の芸名をつけるとは、千田という人を見間違っていたかもしれないと思うようになった。ホーネッカー体制の東ドイツを称賛したというよりは高岩仁を評価したというべきであろうと思いなおした(山森)。

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