事実の重みまたは南京虐殺事件

2015-11-08

ずいぶん昔のことになってしまったが、南京虐殺事件の弁護団に加わったことがある。虐殺から九死の一生を得た当時7歳の少女(夏淑琴さん)が、偽者の被害者であると批判した学者に対する名誉棄損事件である。南京虐殺事件については争のあるところであるが、私は全く虐殺の存在を疑っていない。決定的な証拠と思うのは何よりも従軍した日本人兵士達の従軍記録ならびにその証言である。その従軍記録と証言を前提とする限り何万人もの捕虜を殺害したと考えざるを得ない。その他、膨大な中国人側の証言記録がある。その従軍兵士のノートを見せてくれた小野さんが最近テレビに出ていた(下記2)。小野さんは会社員をしながらこつことと従軍兵士達を周り、記録を集め、本を書いた(下記2)。学者でもない小野さんが何十年もかけて積み上げてきた事実の重みに圧倒される。裁判も名誉棄損事件としては異例なほどに高額な損害賠償を認めている。平成15年 4月10日東京高等裁判所(控訴審)TKC判例データベース
この点で、ほとほと情けなくなるのは日本政府の言明である。一方で、虐殺の事実を認めておきながら(下記3)、ユネスコの世界遺産登録になると、虐殺否定の学者の資料を使い、資料の信ぴょう性を争っている(下記4)。学者の一人は先に名誉棄損事件の被告となった学者である。これでは、かえって日本の印象を悪くして逆効果になったと評されてもやむをないだろう。せめて、中間派と位置づけられているが極めて日本政府に理解ある秦郁彦教授の議論でもつかったらどうかと思う(秦教授は2万数千人虐殺説である)。私も日本人なので否定したい気持ちがどこかにあるが、あまりに事実を無視した無様な議論は日本の名誉のためにしてほしくない(山森)。

下記1
南京大虐殺を記録した皇軍兵士たち―第十三師団山田支隊兵士の陣中日記 ハードカバー – 1996/3小野 賢二 (編集), 本多 勝一 (編集), 藤原 彰 (編集)

下記2
テレビの紹介記事である。2015年10月4日(日)/55分枠  25:10~
シリーズ戦後70年 南京事件 兵士たちの遺言
制作=日本テレビ

古めかしい革張りの手帳に綴られた文字。それは78年前の中国・南京戦に参加した元日本兵の陣中日記だ。ごく普通の農民だった男性が、身重の妻を祖国に残し戦場へ向かう様子、そして戦場で目の当たりにした事が書かれていた。ある部隊に所属した元日本兵の陣中日記に焦点をあて、生前に撮影されたインタビューとともに、様々な観点から取材した。

下記3 外務省のホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/qa/。
問6 「南京大虐殺」に対して、日本政府はどのように考えていますか。
日本政府としては、日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難であると考えています。先の大戦における行いに対する、痛切な反省と共に、心からのお詫びの気持ちは、戦後の歴代内閣が、一貫して持ち続けてきたものです。そうした気持ちが、戦後50年に当たり、村山談話で表明され、さらに、戦後60年を機に出された小泉談話においても、そのお詫びの気持ちは、引き継がれてきました。こうした歴代内閣が表明した気持ちを、揺るぎないものとして、引き継いでいきます。そのことを、2015年8月14日の内閣総理大臣談話の中で明確にしました。

下記4
外務省「問題あり極めて遺憾」
世界記憶遺産:意見書 日本、「南京」否定派を引用 ユネスコ受け入れず
毎日新聞 2015年11月06日 東京朝刊
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録された「南京大虐殺」に関する資料に対して日本政府が提出した民間研究者の意見書を疑問視する声が出ている。日本は、登録申請した中国に反論するため、外務省と専門家の意見書をユネスコ側に提出した。しかし、専門家意見書に南京事件否定派とみられている学者の著書が引用されるなどしたため、かえって日本の印象を悪くして逆効果になった恐れがあるという。
 意見書は明星大の高橋史朗教授が作成した。ユネスコ日本代表部の佐藤地(くに)大使の意見書などとともに、ユネスコ世界記憶遺産国際諮問委員会に9月末、提出された。
 高橋教授は意見書で、中国が一部公開した申請資料を分析。申請資料だけでは「内容の真正性について判断することができない」と指摘した。
 意見書は、「約100名の日本兵が『大虐殺』の存在を否定する本を出版している」と記し、南京市にいた中国人女性の日記についても「伝聞情報に依拠した記述ばかり」と記述。さらに、事件自体を否定する主張で知られる亜細亜大の東中野修道教授の著書を引用して、中国が提出した写真の撮影時期に疑問を呈し、「関連性が疑われる」とした。
 南京軍事法廷で中国人30万人虐殺の首謀者として死刑になった日本軍中将については、部隊が「南京城内に500メートル入ったところで移動を命じられ、虐殺は物理的に不可能であった」と結論づけた。
 欧州と日中韓の歴史認識の比較を研究する静岡県立大の剣持久木教授は「意見書は、南京大虐殺を否定する学派にくみしている印象を与える。ナチスによるユダヤ人虐殺を否定するのと同様の印象を世界に与えかねない」。東京外国語大の渡邊啓貴教授(国際関係論)も「日本に対する印象を悪化させて逆効果になった可能性がある」と懸念する。
 一方、高橋教授は「東中野教授に批判があるとしても、引用した研究内容は検証されたものだと評価している」と反論。外務省関係者は「(高橋教授は)保守派の中ではバランスの取れた研究者だ」と話している。
 日本政府は「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」と認めている。2010年の日中歴史共同研究では、日本側は被害者数を20万人を上限に4万人、2万人などと推計。中国側は「30万人以上」と主張した。
 馳浩文部科学相は5日、パリで開かれているユネスコ定例総会で演説し、世界記憶遺産審査について「透明性の向上を含む改善を早急に実現する」ために加盟国が議論を進めていく必要があると指摘した。【宮川裕章、パリ賀有勇】外務省の川村報道官は、ユネスコの「記憶遺産」に、旧日本軍が多くの中国人を殺害したなどとされる「南京事件」を巡る資料が登録されたことについて「この案件は、日中間で見解の相違があるにもかかわらず、中国の一方的な主張に基づき 申請されたものであり、完全性や真正性に問題があることは明らかだ。これが記憶遺産として登録されたことは、中立・公平であるべき国際機関として問題であり、 極めて遺憾だ。ユネスコの事業が政治利用されることがないよう、制度改革を求めていく」という談話を発表しました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151010/k10010265481000.html

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