スポーツの力またはセルビア対クロアチアサポーターたちの闘い

2013-09-16

1 またまたテレビの話である。こうやってみるとテレビしか楽しみはないのかとも思えてくる。それは、ともかく、スポーツの力を語って感動を呼んだ佐藤真海さんのスピーチは記憶に新しい。佐藤さんは、骨肉腫で足を切断し、東日本大地震で大きな被害を受けたがスポーツの力で乗り切った。同じようにスポーツの力を感じさせる旧ユーゴスラビアを舞台とする番組をみた。
2 旧ユーゴスラビアは1990年頃から2000年まで内戦になり、死者20万人、200万人の人が難民になった。日本で活躍するストイコビッチ選手やオシム監督は旧ユーゴスラビアの選手であった。考えてみれば、世界的な名選手が、なぜ、遠い日本で活動するのか、内戦で母国にいられなくなったという背景があるのだろう。
3 現在もセルビアは失業率20%で決して安定した状態にあるわけではない。
そのセルビアに92歳になる伝説的なサポーターがいる。70年サポーターをしている。試合に負けたことを苦にして3回自殺未遂をはかったこともあるという。なぜそこまでサッカーに熱狂したのかといえば、第2時大戦を経験し、強制収容所にいれられた。そして、息子を失うという辛い経験をした。そのどうしようもない苦しみを救ってくれたのがサッカーだったという。正直なところ、戦争の辛い記憶をサッカーで癒すというのは、ピンとこなかった。しかし、私には想像もつかないほどに辛い目にあった人の言葉として素直に受け取ろう。戦争で傷ついた心をサッカーは癒す力がある。
4 また、熱烈なクロアチア主義者の画家がいる。兄2人を内戦で亡くした。クロアチアでセルビア人排斥の運動をしている。過去の戦争犯罪を明らかにしなければならないと勢いづく。戦後20年経過して、クロアチアとセルビアの融和のために作られた施設ができたところ、その看板にセルビアの文字であるキリル文字を使った。それが許せないとして、集団で施設に乗り込み看板を取り壊したりしている。
 そのようなところで、ワールドカップ予選のためにクロアチアとセルビアの試合がセルビアベオグラードで開かれる。両国が対決するサッカーの試合がは20年ぶりだそうである。両国の国民はおのずからお互いにエキサイトする。セルビアは4000人の警官を動員して物々しい警戒である。
試合中、クロアチアの有力選手にわざととも思えるような反則をした。いきり立つセルビアのサポーターたち、それを押しとどめようとする警官たち、発煙筒がたかれ一時騒然とする。しかし、冷静なセルビア選手たち。淡々と試合を続ける。また反則があった。またも、意図的とも思われるラフプレーである。しかし、淡々としているセルビアの選手。それをじっとクロアチアの画家がみつめる。試合は引き分けに終わる。終わった後、画家は試合をみて、ようやく自分の中で戦争が終わったことを感じたという。死力の限りを尽くした戦いであった。そして、戦いは戦いでも戦争とは異なり、ルールに基づいた戦いをみせてくれた。死力の限りを尽くした戦いであったがルールに基づいている。相手方が反則したからといって反則仕返したりしない。かつて報復が報復を呼び果てしない戦争になった。そのような果てしなき反則の応酬であった戦争とは明らかに異なる世界がそこにあった。そういう時代になったのだと試合を見て感じたのだろう。あるいは、戦争が終わって20年が過ぎたのである。すでにそんなことはわかっていたが、認めたくなかったのを試合を認みて、認める勇気をあたえてくれたのかもしれない。これもスポーツの力である(山森)。
以下、テレビの紹介である
W杯予選の最も熱い日 ~セルビア VS クロアチア サポーターたちの闘い~
  放送: 9月14日(土)22:00~22:49
 再放送: 9月15日(日)11:00~11:49
9月6日、セルビアの首都ベオグラードのスタジアムはサッカー史上、最も熱い一日になるかもしれない。オシム(元日本代表監督)やストイコビッチ(名古屋グランパス監督)の出身国、「旧ユーゴスラビア」で長年対立してきた2つの民族が闘うからだ。W杯欧州予選A組セルビア対クロアチア。予選突破が苦しいセルビアだが、宿敵クロアチアとの一戦となるだけに積年の憎しみやナショナリズムが燃え上がることが予想されている。その一方、クロアチア人との融和を願うセルビア人たちの複雑な思いも交錯する。番組では「W杯予選の最も熱い日」9月6日の一日を軸に、スタジアムやその周辺で事情や背景の違う複数の人々を追う。そこから浮かび上がる民族対立の根深さ、バルカン半島の現実とは?

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