強い自戒と若干の苦言

2012-12-31

先日12月26日の新聞各紙に国選弁護人157人が報酬過大請求 247件450万円の記事が掲載されました。例えば、以下のとおりです。
http://www.asahi.com/national/update/1225/TKY201212250793.html
「逮捕された容疑者や起訴された被告に国費で弁護士を付ける国選弁護制度をめぐり、2006~09年に全国で少なくとも157人の弁護士が接見や公判の回数を水増しし、247件で報酬計約450万円を過大に請求していたことが、日本司法支援センター(法テラス)の調査でわかった。
法テラスは、この157人に水増し分の返還を請求し、弁護士が破産手続き中などのケースを除き、計436万円を回収した。不正が特に多かった19人は3カ月~1年間、国選弁護人としての指名を停止した」(朝日新聞)。
過大申告があったことは弁護士として大変に恥ずべきことです。私自身国選登録をしていますので、人ごととは思えません。厳に戒めるべきことであると思います。  
ただ、そのことを踏まえて、報道の仕方に少し注文があります。すなわち、報酬請求は、過大申告よりも過小申告の方が、圧倒的に多いのです。 被疑者国選で約2.5倍、被告人国選で約3倍です。それは法テラスのプレスリリースに書いてあることです(注1)。もちろん、過大であれ過小であれ不正確な申告をしたのは事実なのでしょうから、襟を正さなければならないことに変わりはありません。請求が不正確なことは問題です。
 しかし、そのことを踏まえても過大請求ばかり取り上げて、その倍以上ある過小請求について沈黙しているのはどうも不均衡です。通常の理解では、ただでさえ安い国選報酬ですから、過小請求を意図してすることはしないものです。申告手続きに問題があるかもしれないことに留意すべきです。それにもかかわらずわざわざ故意ケースまで取り上げています。無論、不心得者はいるでしょう。しかし、あたかも国選弁護人の相当程度の人が不正をしているかのような印象を与える報道並びに法テラス理事長のコメントには疑問を禁じえません。
 素直に、調査結果を読んでいれば、過大請求もあるが、それ以上に過小請求がある。過大であれ、過小であれ請求の仕方が不正確で問題であるという報道になると思います(注2)。
しかし、過小請求について言及しているのは私が調べた限りではYUCASEEという投資関係?会社のメディア1社だけでした。この報道の仕方ならば文句は言えません(注2)。それ以外の何十社かの報道は過大請求についてだけでした(インターネットでざっと調べただけで紙の媒体は調べていません)。これが記者クラブの弊害なのかどうか、わかりませんが、仮に、過小請求について報道することにはニュースバリューがないのでしなかったというのであれば、報道倫理の正確性・公平性からみてもおかしいと思います。
 以上、国選弁護人の報酬過剰申告は弁護士として恥ずべきことです。強く自戒すべきです。他方、報道の仕方、法テラスのコメントも改善の余地があると思います(良)。

注1
法テラスのプレスリリースの抜粋は以下のとおりです
http://www.houterasu.or.jp/news/houterasu_info/page00_00070.html
○ 被疑者全件調査… 平成21 年11 月から平成23 年3 月にかけて実施
過大請求件数(人数):221 件(151 名)
過大請求額 :4,099,170 円
過小申告件数(人数):511 件(402 名)
過小請求差額 :推計1,000 万円
○ 被告人事件調査… 平成23 年4 月から同年12 月にかけて実施
過大請求件数(人数):7 件(5 名・1.5%)
過大請求額(平均額):51,200 円(7,314 円)
過小申告件数(人数):23 件(12 名)
過小請求差額 :104,400 円

注2
国選弁護過大請求409万円、過少請求1000万円
 法テラスは26日、国選弁護人による、過大請求などについての調査結果を発表し、409万円に上ることがわかった。また、一方で過少請求が推計1000万円に上り、請求の不正確さが浮き彫りとなった。
  この調査は、平成18年10月から同20年10月までの報酬と費用の算定を行った国選弁護事件のうち、被疑者国選弁護人が申告した接見回数が3回以上の事件(約6800件)の約2%にあたる124件を無作為抽出して行ったもの。被告人国選弁護人の161件についても同様に調査した。
 

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