育鵬社教科書の問題点⑧ 会津のみなさん,これでいいの?

2015-07-07

育鵬社教科書の問題点⑧ 会津のみなさん,これでいいの? 育鵬社公民教科書のおかしな記述

育鵬社の公民教科書には,偏ったものの見方,根拠不明な記述が見受けられます。
「真理を求める態度を養」う(教育基本法第2条第1号)には,不適切な教科書だといえます。

(1)一つの国家にきっちりと帰属しないと他国を理解できない?
    ダルビッシュ選手,これでいいの?
 育鵬社公民教科書の「グローバル化」を扱う単元には,曽野綾子氏のコラムが掲載されています。
 そのコラムの中で,同氏は,出身校において「よい国際人になろうと思ったら,まずその国の人として立派になりなさい」とイギリス人のシスターに教えられたエピソードを根拠に,「人は一つの国家にきっちりと帰属しないと『人間』にもならないし,他国を理解することもできないんです」とまで結論づけています。
 たとえば,イラン人の父親,日本人の母親をもつ子がアメリカで大活躍した場合,その子が3国すべてに帰属感をもっていたら,その子は「人間」でもなく,他国を理解することもできないのでしょうか。

(2)現在の科学では解明できないことがあると,「サムシング・グレート」… 
   親神様をもちだしていいの?
 育鵬社は科学技術の発達を扱う単元の結論部分において,クローン人間をつくることは技術的には可能である旨述べた上で,「人間がこれまで『神の領域』と信じてきたこうしたことがらに科学技術が踏み込むことには,社会的な合意が求められます。科学では解明できないことがたくさんあることを理解し,生命や自然に対して畏敬の念をもつことも必要です」と結論づけています。
 しかしながら,たとえばクローン人間をつくることについていえば,これは人間の尊厳に直結するからこそ慎重な態度や社会的合意が求められるのであり,そのことは仮に生命事象が科学で完全に解明されたとしても変わりないのではないでしょうか。
 同頁には村上和雄氏の「遺伝子の世界と『サムシング・グレート』」とのコラムがありますが,同氏はこの中で生物の遺伝子情報がどのように集められ書き込まれたのか現代の科学では不明である旨述べた上で,「この人間業をはるかに超えた事実に対しては,何か偉大な存在(サムシング・グレート)の力が想定されます」と述べています。
 同氏の単なる感想であるかもしれませんが,現在の科学で不明な事象があるとして,これで直ちに「サムシング・グレート」が根拠づけられるのでしょうか。
 ちなみに,「サムシング・グレート」とは天理教の親神様のことをいうとか…

(3)アニメを創造し世界に発信する日本人の多くが日本の伝統文化や精神を理解?
    高畑勲さん,これでいいの?
 育鵬社は「文化の継承と創造」との単元を設け,そこで「現在,アニメから科学技術にいたるまで,新しい文化を創造して世界に発信し,活躍している日本人がたくさんいます。彼らの多くは日本の伝統文化や精神を理解し,そこからはぐくんだ活動の成果としての個性が,世界に認められているのです。」と記述しています。
 でも,それって本当でしょうか?

(4)日本人の伝統的宗教観が「自らの役割と責任を自覚」につながる?
    ピューリタンのみなさん,これでいいの?
 育鵬社は「文化の意義と影響」の単元を設け,そこで「日本人の伝統的な宗教観は,ひとつの神を信じて,日々,信仰するというよりも,その時々の宗教儀礼を通して,自分が所属する社会で,自らの役割と責任を自覚することに重きが置かれているようです」,「日本では八百万の神という言葉があり,自然の恵みに感謝し,その自然を崇拝するという考え方があります」と記述しています。
 唯一神ではなく八百万の神を信仰することが,何故に「自分が所属する社会で,自らの役割と責任を自覚する」ことにつながるのでしょうか。(たとえば,キリスト教における宗教改革者カルヴァンは勤勉に「天職」に従事することを説いています。)
 
(5)天皇の取扱  
ア 記述,写真の分量が…    陛下,これでよろしいのでしょうか?
 育鵬社は,「国民主権と天皇」の単元において,国民主権そのものについての説明は5行にとどめる一方,天皇についての説明は17行を割いているのに加えて「日本の歴史・文化と天皇」の囲み記事も掲載しています。
 また,次の箇所で天皇の役割等を写真入りで紹介し
(ア)「日本の伝統文化」で①宮中歌会始,
(イ) 「大日本帝国憲法と日本国憲法」で②大日本帝国憲法発布,③憲法公布祝賀大会,
(ウ)「国民主権と天皇」で④被災地訪問,⑤内閣総理大臣任命式,⑥宮中祭祀,
(エ)「三権分立と国会のしくみ」で⑦国会開会式のおことば,
(オ)「社会保障のしくみ」で⑧施設訪問,
(カ)「国際社会での日本の役割」で⑨オバマ大統領の接待,
更に同じく(カ)「国際社会での日本の役割」で,皇居に向かうギリシャ大使の馬車列
の写真を掲載しています(計9枚+1)。
 育鵬社公民教科書は,その一方で,第二次世界大戦の写真,平和運動の写真,福島原発事故の写真,核兵器の脅威を示す写真などは1枚も掲載していません。
 他社の教科書も天皇の写真を掲載していますが,これほど多くの単元で掲載しているものはありません。
 一体,国の主人公は誰なのでしょうか?
 現天皇陛下は,憲法尊重擁護義務を誠実に果たそうとしておられるように私は聞き及んでおりますが,こうした取扱は陛下の御心にもそぐわないのではないでしょうか。

イ 敬愛・一致団結   会津のみなさん,これでいいの?
 育鵬社は国民主権と天皇の単元で「天皇は,国の繁栄や国民の幸福を祈る民族の祭り主として,古くから国民の敬愛を集めてきました」と記述しています。
 しかし,敬愛を扱うのであれば,その敬愛が戦前の学校儀式や不敬罪で強制され,開戦に貢献したことを不問とするのは一面的ではないでしょうか。
 また,育鵬社は「日本の歴史には,天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して,国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました。明治維新や,第二次世界大戦で焦土と化した状態からの復興は,その代表例です」とも記述していますが,「天皇を精神的な支柱として国民が一致団結」したのは何といっても第二次世界大戦中でしょう。
 そして,その第二次世界大戦中,天皇を精神的な支柱とした一致団結が軍国主義の下で強制されたことを不問とするのは一面的ではないでしょうか。
 さらに,明治維新を「天皇を精神的な支柱として国民が一致団結」した例として挙げることは,天皇を旗印とした薩長側からの見方であり,会津など佐幕側からは容認できないのではないでしょうか?

ウ 立憲君主制のモデル  英国王室,これでよいのでしょうか?
 育鵬社は国民主権と天皇の単元で「天皇は(中略)現代の立憲君主制のモデルとなっています」と記述しています。
 しかしながら,現代の立憲君主制を「君臨すれども統治せず」ととらえるならば,そのモデルはイギリスとはいえても日本ではないのでは?

育鵬社の採択に問題あり! と考えられる方は,声を上げましょう!!
(1)まだ教科書展示会を行っている地域であれば,展示会へ行って意見を書きましょう。
    「神奈川県教科書展示会・会場と日程」
(2)市町村のホームページを通して,意見を述べましょう。
    「藤沢市インターネット意見」
    「横浜市市民からの提案」
    「大阪市区政・市政へのご意見等」
    「名古屋市政へのご意見」
    「東大阪市政への意見」
(3)教科書採択を行う教育委員会を傍聴しましょう。
    「藤沢市教育委員会平成27年7月定例会」
(小池)

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